風鈴
@kunimuraouka
風鈴
りんりーん...りーんりん...
沈黙の中、風鈴の音が響く。寂しげに響く音を私は聞いていた。 夏の暑さを忘れさせてくれる...そんな心地のいい音を聞いていた。
「ただのガラスでこんな音を出せるとは...考えたやつは天才だな。私も一回会ってみたいも のだな」
りーんりーん...
「しかし一体どうなっているんだ?一体どこに秘密が...」
りーん...りーん...
「...おっとその前に片付けなければならないことがあったな。私としたことがうっかりして いたよ」
私は目の前にあるもう動かなくなった人形を見た。自分の頬についた赤い液体を舐めなが ら、幸せそうに微笑んだ。
今日も街は騒がしい。商店街を歩く私はそんなことを思っていた。
「らっしゃい!今日はサンマがやすいよー!」
「いつもありがとねえ!おばちゃんうれしいよ!」 こんな会話はもう聞き飽きるほどに聞いている。 私がこの国に来たばかりのときはかなり驚かされたのだがね。だがまあなれてしまえばなん てことはない。
「お、そこのお兄ちゃん!ちょっくら見ていかないかい?」
頭にタオルを巻いた気合の入ったおじさんが話しかけてくる。
「いや...遠慮させてもらおうか。私はこの後予定があるのでね」
「おお?なんでい!なんでい!想い人でもいるのかい?」
おじさんはにやにや笑いながら聞いてくる。 想い人...ああ、確かに私にとってあれは心の底から愛おしいと思えるものだ。
「ああ。そんなところだよ。では、私はこれで」
そんなところってなんだよー!と追求してくるおじさんから逃げて和紙は目的地に向かう。 そこはこの街の橋の方にあり、ここに住んでいる者さえ知らない、いわば私だけの居場所と でも言うものだろうか。まあ、そんなことをあの青年に言ったら、そんなわけないだろうと 怒られてしまうだろうがな。
しばらく歩くと古い民家が見えてきた。屋根についてある看板には「風鈴屋」と書かれてい る。暖簾をくぐるといつもの白髪の青年が座っていた。
「いらっしゃ...あんたか、くそが」
「やあ。私だからいいが他の客にそのような態度をとっては来るものも来なくなってしまう よ?」
いつもどおりの青年の態度に嘆息しながらもどこか安心した。
「...俺だってそれくらいわかる。お前以外ならちゃんとするさ」
「邦彦(くにひこ)くん。私もそのお客さんだってことを忘れていないか?」
彼は不満そうに鼻を鳴らした。
「俺は金も払わないでただ風鈴を眺めて帰るだけの奴を「客」とは呼ばないもんでな」
「釣れないことを言うなよ、邦彦くん。私だって買いたいのは山々なんだがね...それだけの 金は持ち合わせてないのだよ」
「うるさい。聞こえないだろう。少し黙れ」
おそらく私が来る前から見ていたであろうテレビの方に向き直ってあっちに行けと言ってくる。
「私の存在価値はテレビ以下ということか…そんなに面白いものがやっているのかい?」
青年は何も言わずに画面を見続けていた。私は隣に座って画面を覗き込んだ。
画面には「囚人脱走!未だ逃走中」という大きなテロップが映し出されていた。
「……1週間前に牢獄から抜け出した囚人が未だに逃走中との事です。警察は新たに顔写真を公開し、情報を集めています」
「ああ。全く物騒な世の中だな。くそっ……ん?」
悪態をつきながら青年は画面に写し出された顔写真をよく見ようと体を乗り出して…
「ぐっ…」
背中にナイフが突き刺さって激痛に苦しんでいる少年を私は見下ろしていた。
「悪く思わないでほしい。私は私の身が1番だからね。この身がなければこれを愛することも出来なくなってしまう」
屋上からつられている風鈴に触れると静かな音色が奏でられる。……ああ。、なんて美しいのだろうか。
「お…お前は…」
青年が無理やりこちらを振り返る。
私は画面に映った笑顔を浮かべて
「私は「風鈴」に魅了された囚われ人さ」
風鈴 @kunimuraouka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます