タンデム

 キョウさんの唇の感触を思い出す、思い出そうとする。一緒にきついウイスキーの香りも蘇る。……っていうか、それしか思い出せない。想像するだけで酔いが回りそうだ。


「ちょっと聞いてる? 飛鳥くん? 宗則先輩って今年四年生なの?」と小声で午後のパンキョーで一緒になった千宏ちゃんが聞いてきた。

「あれ、去年三年生の先輩って言わなかったっけ?」

「聞いてないよー! 今年付き合えても1年しかないじゃないー!」

「ん、うぅんっ!」と教授の咳払いと周囲の視線が千宏ちゃんに集中する。

「すぅ、すいませんっ」と会釈する千宏ちゃん。


 この子は相変わらずポジティブに突っ走るタイプ。そもそも宗則さんと付き合えるかどうかもわからないし、もし付き合えても卒業したら終わりって訳じゃないだろうに。

「結局サークルはどうするの?」とできる限り小声で話す。

「入部することにしたよ、部長がショートならタンデムでツーリングでもいいんじゃないかって。バイクはその後考えればって」なるほど、ユキ先輩らしい判断。

 あれ? けど現役四年生抜きだとタンデム出来るのって。

 ユキ先輩は荷物積載用にタンデム席まで広がってる特注のキャリアになってるし、トモくん先輩はトラッカーシートの一人乗り仕様、ご隠居はまだ入院中だし、辛島はバイクは一人で乗る乗り物だとかなんとか言ってタンデムしなさそう。

「俺しかいないじゃん!」と孝子さんの口調が移ってしまった。

「ん、うぅんっ!」と教授の咳払いと周囲の視線。

「すっ、すいませんっ」と会釈する俺。


 ま、まぁキョウさんか宗則さんなら就職活動中でも気晴らしにツーリングには参加しそうだよな。宗則さんが参加するなら間違いなく宗則さんがタンデムするだろうし、千宏ちゃんにとってはそれが一番いいだろう。

 だけど本当に一番いいのは、千宏ちゃんがツーリングでバイクの楽しさをわかってくれて、中型免許をとって自分のバイクで参加っていうのなんだろうけど……。

 ちらっと千宏ちゃんを見る。150ないよな……。


「なんか、いま失礼なこと考えてたでしょ」と千宏ちゃん。鋭いなこの子。

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