第48話

「森? この層の戦闘区って火山だろ? 森ってどこにあるんだ?」


 この層の戦闘区は火山がモチーフとなっている。三つの火山が大きくそびえ、溶岩が溢れそう(溢れることはないが)で周りの木々の葉は無く、地に草も無く、ただ茶色と赤の景色が続いているだけである。街はヨーロッパ風の白くきれいな建物がそびえ、美しい場所なのに外へ出ると火山という何ともミスマッチな組み合わせになっている。この設定をした運営のセンスを疑いたくなるものだ。


「確かにこの層に戦闘区はほとんど火山と葉のない枯れた木しかない。三つの火山は円型のトーテムタワーの戦闘区に等間隔に存在していて、全て同じ大きさのぴったり端が合うように、同心円がまるで噴火した後の森のようになってる。円の中にさらに三つの円が等間隔で入ると外縁付近に火山の影響を受けないところがある。そこには草や葉のある森になってるの」

「………………」


 あまりの驚きに俺は言葉が出てこない。この層にそんな仕組みがあるなんて判るわけもない。火山ならその光景がこの層一面に広がっているとしか思わないのが普通だろう。


「…………どうやってそれを調べたんだ?」


 俺はまだ驚きから完全には立ち直ってないままの状態で声を絞り出して訊きたいことを何とか訊いた。


「私の持ってるスキルの中に『地形記憶』というというのがあるの。それで一度通った場所が記憶されて、スキルを使えばそれが全て脳内に映し出されるの。それを見たのよ」

「え? それってこの層の攻略区を全てくまなく歩いたことになるんじゃないか?」

「そうね。そうなるわ」

「それはすごいな」


 またしても驚愕させられて俺の口から無意識のうちに感嘆の声が洩れる。この層に到達したのは数日前というのにその間に戦闘区を全て歩くなんて。それに狩りもしなくてはいけないのからそれをしながらだ。

 戦闘区と言っても半径四キロと、とても簡単に全体を回れる距離ではない。片道だけでも二時間近くもかかり、その間に狩りもしながらだと二時間半はかかるはずだ。そうなると移動距離があまり稼げない。一体いつの間にそんなことをしていたのか。

 で、そこも気になるが今の問題はクエストの方だ。報酬が良すぎる。五百万フィルに、買えば数千もするエクストラポーションが三十五。それに聞いたことのないスキルの『竜鱗』。さらにSLvを上げるためのスキル強化材。

 クエスト一個、竜の討伐で難易度が高いにしてもこの報酬は良すぎる気がする。隠しクエストとはこんなものだろうか。隠しクエストが初めての俺には判らない。


「私は行きたいんだけど、どうかしら?」


 一見すると報酬がよくて魅力的なクエストだが、内容もちゃんと考えれば本当に大変なクエストだ。倒そうとするのは聖竜。そんなに簡単にいく話ではない。大人数だといいのだが……。


「二人で……だよな?」

「もちろんよ」

「じゃあ聖竜は何層どこにいるんだ?」

「三十四層の戦闘区にいるらしいわ」


 三十四層といえば今の俺たちからすると楽にクリア出来る層だ。だからこそ判断に困る。最前線なら危険だから行かないという選択をすることも出来るが、三十四層だと普通に行ける気がしてならない。でもそれは罠かもしれない。

 でも俺の中で強く思ったことがあったのは行ってみたいという好奇心だった。別に危険になったら転移ブロックを使えば全然大丈夫だ。


「解った。じゃあ明日の九時にここに待ち合わせな」

「……」

「どうした? 何か不満か?」

「そうじゃない。私もネストと同じ宿に泊まるわ」

「えっ!?」

「何をそんなに驚くことがあるのよ。その方が色々と話しやすいし。もちろん部屋は別で」

 と、話が落ち着いたところで俺の泊まっている宿を知らないスフィーに場所を案内した。

 宿に着くと早速二部屋借りてそれぞれの部屋へと入ってゆっくり過ごす。

 そこでどうせすることもないならと掲示板で《フィン・クリムゾン》についての情報を集めることにした。もしかしたら不思議な石についてもあるかもしれない。

 そんな期待を込めて掲示板を確認したが、そんな情報は何一つ無かった。

 ただ一つだけ気になる書き込みがあった。


『何か、大人数のギルドらしき集団が洞窟に入っていってそのままこえってこなかった』


 これだけでは何の集団かは判らないし、洞窟に入った理由がクエストなどの狩り、あるいは《六剣ろくけん》のように――あれは罠だったが――そこをアジトとしているか。そのまま帰って来なかったのは、狩りでMobに殺されたか、本当にそこをアジトとしているギルドかになる。もし後者ならば今噂になっている《フィン・クリムゾン》の仕業の可能性が高くなる。

 せめて場所さえ判ればと思い目撃した人物に訊ねようとしたが、あいにくそのスレのコメント数が上限に達していて、新たなスレが出来ていた。これでは質問することは出来ない。仕方なく目撃した人物がもう一度書き込むのを待ったが結局現れることは無かった。

 特にこの後はすることもなく、まだ昼にもなっていないのにベッドに身を投げてそのまま横になった。

 最近はずっとレベリングのために狩りに出ていて、こうしてゆっくりくつろぐのは久しぶりだ。だから日ごろの疲れで睡魔が襲ってきて、俺はそのまま瞼を閉じた。

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