第29話
「今日は助かったよ二人とも」
「わたしが迷惑掛けてしまったお詫びだし。私の方こそごめんなさい」
「いいよいいよ。私もお兄ちゃんと狩れて楽しかったし」
「ありがとう、二人とも。マナはサイクロンに戻るとして、スフィーはどうするんだ?」
「どうするって言われてもわたしは元々ソロだし……普通に狩るわ」
「そうか。じゃあまた機会があれば組もうな。二人とも、今日はほんとにありがとう」
翌朝、俺は昨日の夜にマナとスフィーと別れる時のことを何となく思い出していた。
昨日は二人のおかげでLvが上がったし、俺一人じゃ絶対に経験出来ないことが出来た。その経験を活かして最前線、攻略区の四階へと向かってみる予定だ。そのためにまず準備を整えないといけない。
今日いつものようにNPCの道具屋ではなくプレイヤーの店に行く。デスゲームが始まってからも俺のメイン装備はフェルにお願いしているが、他の店にも
極力足を伸ばすようにしている。その方が新しい発見が出来るかもしれない楽しさがあるのだ。それともう一つ、情報収集も兼ねている。店を開いているプレイヤーは、前線に出る多くのプレイヤーと接する。その時に前線に関する情報を得ていることがよくある。それを聞いて俺の知らない攻略に関する情報を得ているのだ。
今日も街は賑わっている。重装備のプレイヤーの集団とすれ違ったり、軽装備のままでベンチに腰掛けて談笑しているプレイヤーの前を通り過ぎる。そのどれもにデスゲームという緊張感や焦燥感は感じられなかった。
露店の前には必ずと言っていいほど人がいた。普通の一軒家のショップもいいが、こうした露店のいい所は誰でも気軽に商品を覗けるし、店主のプレイヤーとも話しやすいというところだ。もちろん武具屋もあれば素材屋、食べ物など、露店の種類はNPCの店よりも多岐に渡る。
その中でも今回の目的である道具屋に来て商品を見ていると、端の方に置いてある小さくて水晶のように透明に透き通って輝いている石を見つけた。
「いらっしゃい。何か探し物?」
店の奥から顔を出したのは黒い髪を結んだ二十台半ばの位の女性だった。
「いや、そういう訳でもないんですけど……端に置いてある透明な石って何ですか? 珍しいなと思って」
その石を手に取りながら訊くと、店の女性は「あーそれね~」と軽く笑い、続いて呆れたように言った。
「つい最近素材集めをしてたら偶然手に入ったんだけど……名前は透明な石だし、説明には『透明な石。使い方はわからない』としかなくてね。でもこの世界じゃこんな石珍しいから、役に立つかは判らないけど捨てるのは勿体無くてね。だから持っておこうと思って持っておいたのは良かったけど……やっぱりどうしたらいいか判らなかったから結局店に出しちゃったの」
「へぇ~そうなんですか」
そう言いながらもう一度透明な石の全体を見る。見る限りでは使い方などは全く分からない。どう見ても珍しいだけのただの石だ。でもこの世界で鍛治道具としてではなく普通の道具として存在しているからには何か使い道があるのだろう。ただ、説明にさえも使い方がわからないとなっているためどうしようもない。そんなものがゲームで存在していいのかはさておき、それでもやっぱり欲しかった。明確な理由は自分でも分からないけど、なんだろう、好奇心とでも言おうか。とにかくそんなわけだ。
「この石いくらですか?」
すると女性は少し迷って後に言った。
「タダでいいよ」
「いいんですか?」
「その代わり、もし使い方が分かったら連絡してほしい。私もその石をには興味があるから」
「解りました。そうします」
石を買った(正確にはもらった)俺は店の女性はとフレンド登録し、その人の名前がニエルということが判った。
その他に買ったものは、もとから欲しかったポーションとハイポを一応余分に二〇個ずつ。さらに武器の強化材料が二つ、転移ブロックも一つ買った。
「ありがとうございました。またよろしくお願いします」
「こっちこそ。今度は何か売りにも来てよ」
「はい」
この超短時間ですっかり仲良くなったニエルさんと別れ、早速買ったばかりの強化材料でシュバルツステルをフェルに強化してもらいに行く。
ついさっき通ってきたばかりの道を引き返し、中央広場まで行き、そこからグラスガーデンにワープしてフェールショップに向かった。
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