第17話
「ここのボスは猪だ。最初眠ってるけど、攻撃するとすぐに起きて突進してくる。だから剣で攻撃するとそのあとの回避が困難になる。だから俺が最初に魔法で猪を攻撃して起こす」
ファンシーボアを昨日、マナの属するサイクロンとともに討伐した経験があるから作戦を決めてくれとタケから言われ、こうして俺が昨日の戦闘を思い返しながら説明する。
「そのあとは僕が切り込み隊長かな?」
「いや、そこは俺がやる、と言いたいところだけどな、そこはレディーファーストだ。シエルに譲っておく」
「ちょっとハルク!? 僕は女じゃないから!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。顔とか名前とか、女だって言ってもバレないぞ?」
「よくないよ‼ 絶対しないからね!?」
外見の怖いハルクが自分の容姿や名前、シエルのことをいじっているが、ハルクも実はそんな怖い奴じゃなくむしろいいやつだと俺の中で印象が変わっていた。
ちょっとSっけのあって特にシエルのことをからかっているが、周囲が見れて視野が広く、非常に献身的だ。仲間のピンチには自分が体を張るし、回復する時間を稼ぐのもハルクがになったりする。この短時間で俺もハルクに話しかけられるようにはなった。でもやっぱりどうしてもひるんだりもするけど……すまんな。
「とりあえずイエローゾーンまではβの時と同じっぽいからいいとして、イエローゾーンに入るとあの猪はまた寝床についてHPを回復させる」
「なるほどな。でもそれが分かってれば問題ないな。イエローゾーンに入った時に寝床に誰かが待機してればいいだけだ」
「タケの言う通りだな」
「じゃあそれは俺でもいい?」
立候補したのはサブマスのベルハ。彼はサブマスと言えど見た目通りいじられキャラになっていて、それがゆえにギルド間の壁のようなものが存在しない。サイクロンと言い、いいギルドだと思う。
「じゃあ頼む」
ギルマスのタケが承認したことでその役割がベルハに与えられる。
「それで、レッドゾーンに入ると魔法を使ってくる。威力自体は普通だけど、風魔法と土魔法を使ってくるから混乱しないように。冷静に普通に対応すれば大丈夫だ」
説明が終わると、俺がボスの場所へと案内する。やはり猪は前回と同じ場所で眠っていた。
「いかにもボスがいますって言ってるみたいだな」
最初に俺が見た時と同じような感想を漏らすタケ。恐らくメンバー全員が同じようなことを思っているであろう。
ボスを見つけた所で配置につく。そしてタケの指示で戦闘が始まった。
「さ、早速やりますか」
「分かった。『アクアスプラッシュ』!」
動かない相手なので狙いを外すことなく急所の顔面に当ててクリティカルヒットをゲットし、HPの一割ぐらい削った。
ファンシーボアは直ぐに突進してくる。これは予(あらかじ)め伝えていた通りだ。
そこへファンシーボアの側面から火力特化のローザンとシエルの二人が同時に
さらにタケとベルハの二人が入れ替わりでSSを使うと、さらに一割ほど削れる。
なんで正面から向かってこないんだ卑怯者。とでも言いたげに怒り狂った猪がオルゴールのメンバーの包囲を抜けて俺に向かってくる。おいちょっと待て、こっち来んな。
ファンシーボアのその行動があまりにも想定外だったせいであたふたするが、すぐに剣をインベントリから実体化して迎撃態勢をとる。
「止まれよ!」
俺は無謀にも真っ向から『タブルスラッシュ』で迎え撃ち、黒剣がファンシーボアの頭頂部を捉える。だがさすがはボスと言うべきか、勝敗は俺の圧倒的敗北。勢いを止めることは出来ず、むしろ俺が五メートル強飛ばされる。
その間にオルゴールのメンバーが暴走する猪にSSを繰り出していく。
「うわ、やっべ……」
多少感じる痛みを堪えながら自分の視界右上のHPバーを確認すると、三分の二ほど減って黄色くなっていた。
慌ててポーションで回復する。
今更ながらファンシーボアの強さを実感した。
俺の装備一式はウォーターベアーのもので、そう弱くはないのだが、それでもこの減り方。ファンシーボアの強さはもちろん、それと正面から接近戦と挑めるサイクロンやオルゴールのメンバーの強さにも頭が上がらない。
と、そうこうしているうちにファンシーボアのHPがイエローゾーンに入ったのが見えた。
前回ならここでファンシーボアが眠って回復し始めたのだが──
今回はそんな素振りはなさそうだな。
俺は再び後方支援の出来るポジションに戻る。
最初こそ猪の動きに翻弄されていたオルゴールのメンバーだったが、時間が経つにつれて、慣れてきたのかファンシーボアのHPの減り方が早くなってきた。
それからは俺は見ているだけで良かったのだが、スキルの育成をしたいがために、邪魔にならないタイミングを見計らっては『アクアスプラッシュ』を放つ。
サイクロンのメンバーと狩った時とは違って平和にファンシーボアにダメージを与えていき、ついにレッドゾーンに突入する。
「よし、一気に決めるぞ!」
タケの声掛けによって、オルゴールの五人がファンシーボアを取り囲むようなポジションに移動する。
そしてそれぞれの剣にエフェクトが発生し、同時にSSをファンシーボアに叩き込んだ。
さすがに勝利を確信し、気楽にその行方を見守る。
五人がスキルを放ち終え、膠着時間に入る。
──だが、ファンシーボアは消滅しなかった。
「おい、ウソだろ!?」
慌ててボスの残りHPを確認すると何故か数ドットだけが残っていた。
レッドゾーンに入ってから攻撃したのに、四人ともがスキルを使って攻撃したのにたったこれだけしか減っていない? そんなバカな。昨日はあんな簡単倒せたのになぜだ。
「ヴオオオォォォォォォ!」
雄叫びを上げる猪の周りに無防備な五人。
俺は無意識のうちに走り出していた。
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