第8話

「グオオォォォォォォ!」


 突然ウォーターベアーが雄叫びを上げたかと思うと、俺に向かって突進してくる。


「え、ウソだろ?」


 巨躯の熊が猛然と迫ってくる迫力に呆気にとられながらも慌てて『ステップ』で回避する。

 が、今まで動かなかった熊が今になって動いたため対応が出来ず直撃をくらってしまった。

 後方に飛ばされて、俺の体はにど、三度と地面を跳ねてようやく止まる。

 視界右上のHPバーを確認すれば、満タンだったはずのHPが一気にイエローゾーンまで削られている。

 ドッドッドッドッ、と思い足音が聞こえ、正面に視線を戻すと、同じようにウォーターベアーが突っ込んでくる。

 すぐさま俺は立ち上がって『回避』。急ブレーキで止まる熊の側面に、踏み込んで剣を突き刺す。すると熊がまたクローの体勢に入った。

 すかさず反応し、『ステップ』で後ろに下がり少し距離をとる。


「同じ手が二度も通用するか!」


 ウォーターベアーが攻撃を出してくるようになったのでここで俺は戦法を変える。後ろに下がっている状態から右斜め前に『ステップ』で動きながら剣を出して斬る。

 俺はこの動き繰り返した。たまに左に動いたりして動きを読まれないように。

 この動作を繰り返す間にもウォーターベアーは鋭利な爪を使ったクローを出してくる。多分あと一撃食らえば死んでしまうほど後の無い俺は『ステップ』や『回避』を使って避ける。

 そうしているうちにウォーターベアーのHPが残り五分の一になりレッドゾーンに入る。ここで俺は決めにいくことにした。

 よし、使えるようになったばかりのアレを使うか。……最初のモーションは、と……しまった! 確認するのを忘れてた。ヤバい、どうしよう。……ここは勘だ。『ダブルスラッシュ』なんだから最初は『スラッシュ』と同じ……だよな。

 俺は何でこんなミスを犯したんだ。本来ならスキルの説明の一番下に最初のモーションが書いてあるのだが、スキルの説明だけ読んでおいてモーションを見るのを忘れてた。もちろん状況が状況のため今は見れない。だから勘でいく。

 自分の予想を信じ、『スラッシュ』と同じモーション、顔の右に剣を構え左足を一歩前に出す。これを素早く行い、まずは、剣を右上から左下に振り下ろす。ここまでは『スラッシュ』だ。もし今スキルが敵の攻撃もしくはモーションのミスでスキルが途切れると『スラッシュ』を発動させたものとなり、五秒間の硬直が待ち構えている。一撃目が他のSSと同じモーションがなければ、モーションを自分で入れる必要はないのだが、『タブルスラッシュ』場合は初撃が同じために二撃目のモーションを自分で始めなければいけない。

 俺は直感で、剣を振り下ろした状態から右足を一歩出して剣の刃の向きを変える。もちろんこの動作も素早くだ。

 すると運が良かったのか、俺の予想が当たってシステムアシストが働き、自動的に攻撃を繰り返す。『スラッシュ』で振り下ろした軌道を逆戻りさせるべく、左下から右上に向かって斬り上げた。

 二発目のスイングはウォーターベアーの胸を綺麗に切り裂いて抉った。

 ウォーターベアーのHPは左端までいって消え去っていた。そしてウォーターベアーは消滅した。

 消滅したのを確認した俺は安堵感に包まれて脱力し、地面に座り込んだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ、何とかな」


 離れたところから見ていた二人が心配そうに走り寄った。

 同時にネストは立ち上がろうとした。しかしまだ力が入りにくく少しふらついたところを少年に支えられる。


「ご、ごめん、ありがとう」


 今度こそしっかりと力を入れて立ち上がる。


「助けて下さってありがとうございます。僕がストルでこっちがタリスです」

「俺はネスト。よろしくな」


 お互いに自己紹介をして握手を交わす。


「どうしてあんな事になったんだ?」

「分かりません……レベルを上げるためにここで狩っていて、ランニングバードを倒したときにあの熊がやってきて襲われたんです」


 それを聞くとネストは何かを考えるような様子を見せたが、直ぐに何でもないというように笑って見せた。

 すると今度はストルが真面目な様子で言った。


「あの~、お願いがあるんですけど……」

「何? 言ってみて」

「はい、実は僕達とパーティーを組んで欲しいんですけど……」


 少々予想外の質問に驚愕する。

 今(と言っても四、五十分前)に出会ったばかりでパーティーを組んで欲しいと言うのだ。なんでそうなるのか分からないが、さすがに即答はできない。

 うーん、どうしよう。これからする事があるし、それにこの二人とは出会ったばかりで二人の事は何も知らない。でも俺としてはこのゲームで一緒に狩る仲間が欲しいのもある。そうだ、それだったら……。


「ごめん、これから用事があるからパーティーは組めないんだ」

「そう……ですか…………」

「でも、組めないのは今のことで、日を改めてなら大丈夫だよ。空いているときがあったら声を掛けるからフレンド登録しようか」

「え、ホントですか!?」


 ストルは目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。ストルの横にいるタリスも笑顔で安心した表情を浮かべている。

 どうやら満足してくれたようだ。


「じゃあ、フレンド登録しようか」


 俺はウィンドウを操作し、ストルにフレンド要請を送る。

 しばらくしてストルが『YES』を押す。これをタリスにも同じように繰り返した。


「これで次の街、グラスガーデンに行けるよ。パーティー組んでたから」

「ああ、なるほど。だからパーティーを組んだんですか~」


 俺は笑って答える。


「じゃあ俺はもう行くから」

「はい。本当にありがとうございました」

「気にしなくていいよ。じゃあ、またね」


 そう言い残して、二人と手を振って別れる。そして見えなくなると前に向き直り歩き始めた。

 それから少ししたところでボスドロップを確認するのを忘れていた事に気付き、慌てて確認する。



『クローアーム』『曲爪剣』『スロッグメット』『水熊の牙』『水熊の爪』『水熊の毛』



 ボスドロップの武具は三つか。レア度に関しては全く分からないから後で聞こう。それに素材も出てるから防具でも作ってもらうか。

 そう決めて次の街、グラスガーデンへと向かった。 どうやらウォーターベアーを倒した場所からグラスガーデンはそれ程離れていなかったらしく、あまり時間がかかること無くゲートが見えてきた。

 俺は『爽やかな花の街グラスガーデン』と書かれたゲートを見上げた。

 もうここに来たんだな、早いな。でも問題はこれからだな。それにこの辺りからLvの上がりが遅くなってくるし、まだ二つ目の街だ。まだまだ先は長い。

 よし、入ろう!

 そう決めて俺は花の香りに呼ばれたかのようにゲートをくぐってグラスガーデンに入って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る