第15話 誤った結論
広場が静寂に包まれる中、その場にいる全員の視線がただ一点に集中した。
──悠然とした態度で兵士に歩み寄っていく、騎士の鎧を纏った可愛らしい少女。
彼女を見た人々の反応は様々だ。
ある者は馬鹿にしたように鼻で笑い、ある者は膝をつき祈りを捧げ、ある者は息を呑み様子を見守っている。
「な、なんだ貴様ッ!! 騎士の真似事なら他所でやれ!!」
静寂が怒りと動揺を含んだ大きな声によって破られた。
──このおじさんホントうるさいなぁ。偉そうで横柄の態度といい、会社にいた上司を思い出してイライラする。
「......少し黙っててよ」
ミサキは呆れ顔で声を上げた騎士を見つめると、小さくて溜息をつきながら、軽く右手を振った。
直後、激しい突風が中年の偉そうな騎士に向かって吹き荒れる。
「なっ!? ぐはっ!!」
中年の偉そうな騎士は驚愕の声を上げると、馬ごと2mほど吹き飛ばされ、身体を地面に叩きつけられた。
「うぐっ......」
「副団長っ!! ご無事ですか!?」
「──ダメだ。 気を失っている。いったいなにがどうなってるんだ!?」
突然の出来事に慌てふためく兵士達。彼等は誰一人現状を正確に把握することができなかった。しかし、副団長が吹き飛ばされているのだ、分からないで済ませるわけにもいかない。
兵士達は考えに考えぬいた末に、斜め上の結論に辿りついた。
「拳闘士スキルか......?」
「なるほど。 それならありうるのか......?」
「騎士の格好にすっかり騙されたぜ! ふざけたことしやがって!」
ミサキは予想外の兵士達の言葉に、キョトンとした表情を浮かべた。
この人達は何を言ってるんだろう......。
私が知らないだけで、拳闘士って風で剣を防ぎ続けるスキルでもあるのかな? んー。分からないなぁ。まいっか。街に帰ったらギルドで聞いてみよう。
「おいっ!! 貴様はこの村の者なのか?」
「違うよ? 私はただの冒険者だよ」
「冒険者だと? なんで冒険者が我々の邪魔をする! 王命に逆らったらどうなるか分かっているのか?」
「さぁー?」
「貴様......。ふざけてるのか?」
「ふざけてるのはそっちでしょ? 男を全員村から連れて行ったらどうなるか、想像もできないの?」
「だ、だまれだまれ!! 我が国が戦争に勝つか負けるかの瀬戸際なんだぞ!? それに陛下の命令に従うのは、国民として当たり前だろ!!」
「はぁ。やっぱり話しても無駄か......」
──まるで歴史で学んだ戦時中の日本みたいだ。いや......。私の生きてきた時代も本質的には変わらなかったのかもしれない。強い者が弱い者を従わせ奪い取る。力がなければ正しいと思うこともできないのは元の世界もこっちの世界も同じか......。
ミサキが考えを巡らせていると、その様子を見ていた兵士達はミサキに気づかれないように距離を詰めようと足を一歩前に踏みだした。
「あっ、それ以上一歩でも私に近づいたら、躊躇なく殺すよ?」
「うわっ!!」
「ぐえっ!!」
ミサキが兵士達に向けて右手を振った瞬間、再び発生した突風が兵士達を容赦なく吹き飛ばした。
「うぐっ、お、覚えてろよ! 後悔することになるぞ!!」
「もう諦めてよ......。なんとか帝国の二の舞になるよ?」
「なに訳の分からないことを言ってやがる! おいっ!! お前らいくぞ!」
立ち去る兵士達の背中を見送りながら、ミサキはほんの少し後悔していた。
んー、もうちょっと脅しといたほうがよかったかなー? あの様子だとまた絶対くるよねぇ。待ってるのは面倒だけど、村を見捨てて帰るわけにもいかないし、仕方ないかあ......。
「ミサキ、すまねぇ......。俺のせいで巻き込んじまって......」
立ち上がり私に歩み寄ると、申し訳なさそうに頭を下げるジョージさん。
正直、サーシャさんとジョージさんのことは嫌いじゃないから、こんなことで死んでほしくない。まあ、ジョージさんは少し無鉄砲すぎるところがあるから、あとでサーシャさんに怒ってもらおう。あれじゃ命がいくらあっても足りないよ。
「私のことは気にしないでいいよ。あっ、でもあの兵士達が戻ってくるかもしれないから、もう少しお世話になるかも?」
「あぁ、願ってもねえ。だが、一体どうするつもりだ? 王命に逆らったんだ。次は軍勢を引き連れてくるかもしれねえぞ?」
「まあまあ、それは私に任せてよ! さてと、私は戻ってホットミルクタイムを楽しむかなー!」
「ホットミルクタイムって......。なぁ、本当に大丈夫なのかあ?」
「大丈夫、大丈夫! なんとかなるよ!」
ジョージさんの家に戻った私はサーシャさんが温め直してくれたホットミルクをゆっくり楽しんだ後、サーシャさんとお喋りしながらまったりとした楽しい時間を過ごした。
「なぁ、サーシャ。そろそろ許してくれよお......」
「いーえ! 今日という今日は許しません!」
床に正座しながら悲しそうにサーシャさんは見上げるジョージさん。かれこれ2、3時間ぐらいジョージさんはこの状態だ。足が痺れて感覚もないだろうなぁ......。まあ、サーシャさんが怒るのも無理ないよね。私がいなかったら間違いなくジョージさんは殺されてたわけだし。
ジョージさんにはこの機会にしっかり反省してもらおう。サーシャさんを1人にしようとした罪は重い。
◆◇◆◇
翌日。夕日が西の空から村をオレンジ色に染める頃、鬼気迫る声が村中に響き渡った。
「兵士達がきたぞおおお!! とんでもねえ数だっ!!」
──おっ? 意外に早かったなぁ。まっ、さっさと片付けてきちゃいますか。
「ミサキちゃん......」
私が椅子から立ち上がると、サーシャさんが心配そうな表情で椅子から立ち上がった。その傍には昨日に引き続き正座で反省をしているジョージさんの姿もある。
「大丈夫、大丈夫! サーシャさんは、ジョージさんが兵士達に突っ込んでいかないように、しっかり見張っててね? まあ、足が痺れててそれどころじゃないか……」
私はニヤニヤしながら、正座するジョージさんの足を指でツンツンと突っついた。
「はぅっ!! お、おい、ミサキ!! 頼むから突っつくのはやめてくれっ!!」
「ふふっ、もうミサキちゃんたら......。分かったわ。でも無理はしないでね?」
「はーい!」
サーシャさんに向かって笑顔で手を振ってから、私はジョージさんの家をでた。
──さてと。王命だかなんだか知らないけど、理不尽には理不尽で返すしかないよね?
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