第8話:大魔境・皇太子視点

 情けない話だ、千を超える騎士団が全滅するなんて。

 せめて最後に大魔境の状況くらい知らせろと思ってしまう。

 が、それがすでに思い上がりなのかもしれない。

 大魔境と呼ばれているくらいだから、強力な魔獣がいるのかもしれない。

 そうでなければ、腐敗した惰弱な国の領主軍とはいえ、千の兵力が一人も帰って来れないのは異常だ。


「皇太子殿下、騎士団の準備が整いました!」


 特別に選別した騎士団が整列している。

 皇国でも最優秀の騎士を選抜した精鋭部隊だ。

 皇国内の魔境で強力な魔獣を相手しても、単騎で狩れる猛者ぞろいだ。

 彼らなら、未知の魔獣が襲ってきても、狼狽して実力が発揮できないような、無様な真似はしない。


「今から大魔境に捨てられたという聖女様を探し出しお救いする。

 これは皇国の存亡をかけた救国の任務である。

 各員油断することなく、奮戦敢闘してもらいたい」


「「「「「はっ!」」」」」


 みなの決意に満ちた表情を見ると、俺も改めて身が引きしまる。

 この者達に比べて、公爵とその取り巻きもなんと醜いことか!

 不義密通した正室と奸臣どもを誅殺した時に、逆恨みした奸臣どもが聖女様を奪い、大魔境に捨てたと白々しい事を言っていたが、明らかに怪しい。

 ずっと側にいた後妻の邪悪な眼は、正室の座を奪おうと陰謀を巡らせたと白状しているも同然だった。


「出陣!」


 聖女様をお救いしたら、あの後妻共々公爵一族を皆殺しにしてやる。

 聖女様を大魔境に捨てるような奴らを、生かしておくわけにはいかない。

 問題はあの悪女が絶対に殺せると判断した大魔境で、どうやって聖女様が生きているかという事だ。

 腐っているとはいえ、完全装備の騎士団が全滅したのだ。

 鋼鉄の板金鎧を着ていても身を護れない事は確かなのだ。


「周囲の警戒を怠るな。

 外周部は盾隊がしっかりと守れ。

 盾隊が押しとどめた敵を槍隊が確実に叩け。

 一撃で斃せなくていい、傷を負わせて戦闘力を奪っていくのだ。

 輜重隊は驢馬を暴れさすなよ」


 大魔境に入ったら直ぐに襲撃されるかと思ったが、全然無反応だな。

 だが、我々を見つめる視線を感じるから、明らかに見張られている。

 我々が油断するのを待っているのだろうか?

 そうなると、魔獣に知恵があるという事だが、魔獣に知恵があるのだろうか?

 それとも、誰か魔獣を指揮する者がいるのだろうか?


 魔獣を指揮する者がいるとしたら、その者が聖女様を助け匿ったことになる。

 となると、大魔境に心正しい者がいることになる。

 しかしそれでは、公爵達を野放しにしている意味が分からない。

 大魔境の魔獣を従え、公爵軍を全滅させられる戦闘力があるのだ。

 その気になれば、聖女様を助けた十五年前に、悪女や公爵を殺して公爵家を支配下に置くこともできただろう。

 いったいどうなっているんだ?

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