第4話:平安無事・カチュア視点

「ミャアアアア」


 金猫ちゃんが優しく呼んでくれます。


「はい、直ぐに行くわ」


 私はうれしくて直ぐに返事をして駆けだしました。


「もう、金猫は直ぐにカチュアを呼びつけるんだから」


 私が金猫に返事をすると、フェアリーが苦言を呈します。

 フェアリーに言わせると、私は金猫の主人で、金猫の呼ばれるのではなく、逆に呼びつけなければいけないのだそうです。

 でも、そんな事はできません。


「当然ですよ、フェアリー。

 私もフェアリーも金猫ちゃんに護ってもらっているのですよ。

 金猫ちゃんがいなければ、私もフェアリーも、とうの昔に魔獣に喰われてしまっていますよ」


 私がこの大魔境に捨てられたのは、十五年前の三歳の時だそうです。

 ほとんど記憶にはありませんが、私を護ろうと一緒についてきてくれたフェアリーからは、そう教えられました。


「その事は分かっているわ。

 だけどそれとこれは別、カチュアは公爵令嬢なのだから、もっと優雅に偉そうに振舞わないといけないのよ」


 フェアリーは事あるごとに私を公爵令嬢だと言います。

 多分のそうなのだと思いますが、だからといって、なんなのでしょうか。

 ここに人間は私だけしかいなくて、フェアリーが教えてくれた王侯貴族もいなければ、家臣も領民もいません。

 フェアリーが教えてくれたことは、何の役にも立たないのです。

 それどころか、頭で想像をしても、具体的な姿すら浮かびません。


「ミャアアアア」


「ごめんね、金猫ちゃん、直ぐに料理するわね」


 公爵令嬢という話よりも、もっと大切なことがあります。

 金猫ちゃんが私のために獲って来てくれた魚を料理するのです。

 自分とフェアリーが食べる分だけでなく、獲って来てくれた金猫ちゃんにも食べてもらうので、薄味に仕上げなくてはいけません。


「ああ、そんな事は私がやるから、公爵令嬢のカチュアは見ていればいいって、何度言えばわかるのかな」


 フェアリーは何でも全部自分がやって、私にはじっと見ているように言ってくれますが、身体の小さなフェアリーが、大きな私や金猫が満足するだけの量を調理するのはとても大変なのです。

 幼くて何もできなかった頃はともかく、今は見ているだけなんて嫌です。

 私のフェアリーや金猫ちゃんの役に立ちたいのです。


「そうはいきませんよ、私だって家族の一員なのです。

 誰かに働かせて自分だけ遊んでいるわけにはいきません」


 フェアリーは家族という言葉に弱いのです。

 私がこの言葉を使うと、一緒に働いても文句を言わなくなります。

 フェアリーが話してくれた沢山のお話の中には、王侯貴族の話だけではなく、庶民家族の話もありました。

 家族の話をしている時のフェアリーは一番幸せそうでしたし、私も心から幸せだと感じました。

 今ここにいる家族は、私とフェアリーと金猫の三人なのです。


 

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