第3話:謀略・ニルラル公爵視点

 最悪だ、全く打開策が思い浮かばない。

 このままでは、歴史あるニルラル公爵が滅ぼされてしまう。

 全てはビエンナを後妻に迎えたことが原因だが、ビエンナを処罰して生き残ろうとは全く思えない。

 ビエンナを失うくらいなら、滅亡を覚悟で皇国に戦争を挑む。


「何を悩んでおられるのですか、公爵閣下」


「そのような他人行儀な呼び方は止めよ、そなたは私の正妻ではないか」


 本当にその通りだ、ビエンナに他人行儀な口を利かれると、私を捨ててこの家を出て行ってしまうのではないかという恐怖に囚われてしまう。

 その恐怖感は、脚が強張り全身が震えてしまい大声を出して泣き叫びたくなるほどで、とても耐えられるものではない。

 ビエンナを失うくらいなら戦うという覚悟に揺るぎはないが、同時に戦いの中でビエンナが死んでしまうのではないかと思うと、心臓が早鐘のように鳴り響き、冷たい汗が全身から噴き出してしまう。


「有難き幸せでございます、旦那様。

 では、正妻として伺わせていただきます、何をそんなに思いにやんでおられるのですか、私にも旦那様の不安を分けてください」


 真摯に私を心配してくれる姿に心が温かくなる。

 だが、口にしていいものだろうか?

 このように優しく私を思いやってくれるビエンナが、私と先妻の間に出来た子、カチュアを平然と大魔境に捨てたのだ。

 女らしいと言うべきか、独占欲と嫉妬心が異常に強いのだ。


「……それがな、そなたが捨てたカチュアが、どうやら次期聖女だったようなのだ。

 しかもまだ大魔境で生き延びているようなのだ。

 そなたの行いが皇国に露見したら、その報復は想像を絶するモノになるだろう。

 もしそんな事に成ったら、私は敵わぬまでもそなたを護るために戦う心算だが、そなたを一緒に死なせるかと思うと、辛くてな……」


「私の事をそこまで愛し心配してくださること、心から嬉しく思います。

 ですが、その事なら何の心配もありません」

 

 何を言っているのだ、ビエンナは?

 皇国の聖女を殺そうとして大魔境に捨てなど、絶対に許される事ではないのだぞ?

 カチュアの口を防ぐために殺すとしても、大魔境のどこにいるのか分からない。

 黙ってやり過ごそうにも、ジリアス皇太子の調査は徹底している。

 王家に死亡届は出しているが、厳重に聞き込みをされたら、事実が露見するのは明らかだ。


 腹立たしい事だが、ビエンナは領民から忌み嫌われている。

 あの当時の悪い噂は、厳しい禁令をだして一旦封じたが、皇国の皇太子が聖女を探していると知れば、必ず告げ口する者が現れる。

 そんな事くらい、賢明なビエンナが気付かないはずがないのだ。


「大丈夫でございますとも、旦那様。

 カチュアは旦那様を逆恨みした家臣たちに攫われ、大魔境に捨てられたのでございます。

 カチュアが死んだと思っておられた旦那様には、何の落ち度もございません。

 今も生きているのが分かった以上、捜索隊を整えて探し出し、ニルラル公爵家の長女として皇国に嫁いでもらえばいいのでございます」


 なるほど、全ての事を、十五年前に先妻と一緒に殺した家臣どもに被せてしまえという事だな。

 確かにそれが上手くいけば、私はカチュアの父親として皇国で権力を握ることができるから、今以上に贅沢三昧ができる。

 だが、それほど上手くいくだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る