第184話 判明

あゆみに怒鳴られた後、そのまま作業をしていると、雪絵は作業場に入ってくるなり、「なんであんたが居んのよ?」と、嫌悪感むき出しの口調で聞いてきた。


「ここは俺の会社だ。 と言うか、いつまで掃除してんだよ?」


「あんたには関係ないでしょ?」


「俺の会社だから関係あるだろ? さっさと仕事しろよ」


「偉そうに言われる筋合いはない。 大体、何も教わってないのにやれっていうほうがおかしい」


雪絵がそう言い切ると、あゆみが「あんたが聞かないからでしょ!? 美香っちが我慢して散々教えようとしてたのに、『指輪がムカつく』っつって拒否ったのはあんたでしょ!?」と声を荒げた。


「ムカつくものは仕方ないでしょ!?」


「そんなんで社会人やってけるとでも思ってんのかよ!! だいたい、あんたか美香っちの私物を隠してんだろ!? ガキ臭いことばっかしてんじゃねぇよ!! 大地のウサギだってあんたが捨てたんだろ!? どっかの会社の姪っ子だかなんだか知らねぇけど、邪魔ばっかしてんじゃねぇよ!!」


あゆみがそう怒鳴りつけた瞬間、雪絵の掌が俺の左頬を振りぬき、パーンと言う高い音を響かせていた。


『…なんで俺?』


そう思っていると、雪絵は足音を立てながら作業場を後にし、作業場は静まり返る。


しばらくシーンとした後、「…悪かった」と言うと、大介が「お前も大変だな…」とだけ。


シーンとしたまま作業を続けていたんだけど、雪絵が作業場に戻ることもなく、1日を終えていた。



定時後、すぐに兄貴に電話をし、雪絵のことを告げると、兄貴は「わかった。 来月からこっちで引き取る」と切り出してくれた。


「敬語を一切使えないんだけど大丈夫かな?」


「例の企業も依然行方不明だし、料金の未払いも発生してるから、こっちが弱気になる必要はない。 強気で行け」


「わかった」


そう答えた後、電話を切り、急いでマンションに帰宅していた。


マンションに入ると、美香は慌てたように立ち上がり、夕食の準備をしていた。


「もう大丈夫なのか?」と聞くと、美香は「うーん… たぶん…」とだけ。


着替えた後、ソファに座ったんだけど、クッションの裏から1枚の紙が少しだけ姿を見せていた。


なんとなくそれを取ってみると、白黒の写真の中央には黒い楕円が写っていて、その中に小さな豆粒のような白い影が映っていた。


「これ何?」


そう言いながら写真を見せると、美香は苦い顔をしながら「8週だって…」と言いにくそうに言ってきた。


「マジで? 最近調子悪そうだったのって…」


「つわりっぽい…」


一気に喜びが膨れ上がり、思わず黙ったまま立ち上がり、美香のことを抱きしめ、唇を重ねた瞬間、美香は慌ててトイレに駆け込んでいた。


『キスした後に吐くって…』


軽くショックを受けながらも、「大丈夫か?」と言いながら、トイレのドアをノックすると、美香はゆっくりとドアを開け、黙ったまま洗面所へ。


美香は顔を洗った後「…ごめん」と、呟くように切り出してきた。


「謝ることねぇよ。 マジで嬉しいし」


「プロジェクトはちゃんとやるから!」


「当たり前じゃん。 ただし、絶対に無理はするな。 いいな?」


美香は黙ったままうなずき、俺にしがみついてきていた。


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