第181話 取引
大介と勇樹が入社して以降、ほんの少しだけ作業に余裕ができていた。
というのも、大介はかなり作業スピードが速く、負けず嫌いのユウゴも、それにつられるように、作業スピードが速くなっていた。
勇樹も大介に負けず劣らずといった感じで作業をしてくれるし、あゆみも作業に慣れたのか、かなりの戦力になっていた。
おかげで、美香が親会社に行っていたとしても、問題なく作業は進むし、俺とケイスケはヒデさんの指導の下、アニメプロジェクトに専念できるように。
唯一の盾がなくなった問題の雪絵は、相変わらず敬語は使えないんだけど、メールの送受信ができなくなったせいで、掃除と制作作業に専念しているだけ。
掃除はかなり荒く『本当にやったのか?』と疑問に思うことが多々あったけど、あゆみが見かけるたびに注意してたため、俺の出番はほとんどなかった。
資料室で雪絵に対し説教をするあゆみを見て『ホント、たくましくなったし、成長したよなぁ…』と感心ばかりをしていた。
そのまま月日が過ぎ、お盆休みにはシュウジとじいちゃんを連れて墓参りやプールに行ったり、美香の実家に行ったり、二人で旅行に行ったりと、ほとんど休まることがなかったんだけど、気持ちがリフレッシュできたし、何より毎日のように兄貴の元に呼ばれている美香が、綺麗な髪を弾ませながら、無邪気に楽しんでいたから、それだけで満たされた気分になっていた。
お盆休みが明けた初日。
美香は朝から親会社に行き、あゆみと大介、そして勇樹に作業を任せ、先生とヒデさん、先生の3人を応接室に招き、アニメ化について打ち合わせをしていた。
昼過ぎになると同時に、2階の作業場に場所を移し、まずはOPの制作に取り掛かっていた。
少しずつ形にしていると、作業場のドアがノックされ、美香が姿を現したんだけど、その後ろにはけいこの姿が。
「社長、本日よりこちらで勤務する山崎恵子さんです」
美香の言葉に驚き「え? 会社どうした?」と聞くと、美香がクスッと笑った後、話し始めていた。
「お局のいびりに頭にきて、退職願叩きつけたんですって。 しかも顔面に」
「ちょっ! パフェ奢るから言わないでって言ったのに!」
「あれ? そうだっけ?」
「もぉ! パフェは奢ってもらうからね!」
二人は話しながら笑っていたんだけど、ヒデさんは「強力なやつが来たな。 よし! 気合い入れていくか!」と切り出し、すぐにけいこは作業を始めていた。
すると美香が俺に近づき「けいちゃん、アニメが作りたくてこの業界入ったんですよ。 アニメ制作に関しては大ベテランなんです」と教えてくれた。
「へぇ~。 そうなんだ。 期待大だな」
「今日はもう親会社に行かないで大丈夫なんで、勇君呼んで交代しますね」
美香の提案に了承すると、美香は作業場を出ていき、勇樹が中に入ってきた。
そのままアイデアを出し合い、作業を続けていたんだけど、途中から大介が中に入り「美香にこっち行って良いって言われました」と言い、作業に合流する。
大介はヒデさんに説明を受けながら資料を見て、すぐに作業を開始していた。
定時を過ぎると、人数分の弁当を持った美香とあゆみが合流し、しばらくするとかおりさんが差し入れを持ってきてくれた。
ふと時計を見ると20時を過ぎている。
「そろそろ終わりにして帰ろう」
そう声をかけると、みんなは「うぃ~」と返事をし、後片付けを始めたんだけど、けいこが俺のパソコンの横にあったウサギを見て「これどうしたの?」と声をかけてきた。
「ああ。 お守りみたいなもんかな? どことなく美香に似てない?」
「は? いつも隣にいるのに? 頭沸いてんの?」
「おま… 俺、社長なんだけど…」
「あ! そう言えばそうだった!! お詫びに美香を好きにして良いから!」
「なら許す」
冗談を交えながら後片付けを終え、美香と二人で帰宅していた。
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