第180話 転機

翌朝、目が覚めると、美香は裸のまま俯せになり、必死にベッドの下に腕を伸ばしていた。


美香にピッタリとくっつき「何してんの?」と聞くと、美香は「ごめん。 起こしちゃった?」と聞いてきた。


「いや、ちょうど目が覚めた。 何してんの?」


「Tシャツがさ… もうちょっとで手が届くんだけど…」


「ああ、夕べ脱ぎ散らかしてたもんな」


「え? マジで?」


「マジ。 かなり激しかったよ?」


はっきりとそう言い切ると、美香は真っ赤な顔をしてこちらを向き「飲ませるからだよ…」と言いにくそうに告げてきた。


「あんなちょっと酒飲んだだけであんな風になるんだな。 外では絶対飲むなよ?」


美香は真っ赤な顔を隠すように抱き着き「忘れて!」と言い切っていた。


笑いながら「面白いからまた飲ますし」とはっきり言うと、美香は「ダメ! 飲ませないで!」と、抱き着いた腕に力を籠め、笑いながら美香のことを抱き返していた。



翌週から、大介と勇樹が入社していた。


勇樹は俺と同じ部屋で、ケイスケとアニメ制作に関わることを熟し、大介はユウゴと美香に指示を受けながら、作業をしていた。


しばらく作業をしていると、部屋のドアがノックされ、美香が「光輝社長がお見えです」と切り出し、3人で隣の部屋へ。


兄貴は俺たちの顔を見るなり、雪絵に対し「クレームが多く来てる。 なぜかわかるか?」と切り出した。


「クレーム? なぜですか?」


「最終チェックを怠っているからだ。 なぜチェックをしてもらわない?」


「時間の無駄だからです」


「以前も注意したが、それは就業規則を守る気がないということか?」


「効率よく納品するためには、チェックの時間を削るしかないですよね?」


「効率重視で正確さを失ったら本末転倒だろ。 今後は制作と掃除だけをするように。 納品はしなくていい。 納品の時間が省けるんだから、掃除ができるだろ? 給料も契約社員並みに減らす」


「掃除と減給? なんで? 意味わかんないし」


「就業規則に従えないんだろ? 何度注意しても従えないなら、減給するしかない。 それとも、解雇のほうが良いのか?」


「そんな事できるんですか? 叔父が怒りますよ?」


「その叔父の友人である企業と連絡つかないんだが、夜逃げでもしたのか?」


雪絵は黙り込んでしまい、悔しそうに唇を噛んでいた。


「大地、彼女のパソコン、メールの送受信が出来ないように設定してくれ」


兄貴に返事をした後、すぐにパソコンの設定を変えながら『減給されてメールの送受信できないようにって、しかも唯一の盾だった企業が夜逃げってさぁ… プライド、ズタズタだな…』と思っていた。


設定を変え終えた後、兄貴が俺と美香に切り出した。


「凍結されてたアニメ化の話が動くんだろ? 松田さんからの申し入れで、来週からアドバイザーとして来てもらう事になった。 まぁ、園… 美香さんがいれば問題はないだろ」


美香はクスッと笑った後「もうお帰りですか?」と兄貴に切り出した。


「ああ。 向こうでやることがあるからね。 そうそう、美香さん、例のコミック配信、売り上げ1憶突破したよ」


美香は兄貴の言葉を聞いた瞬間、「ホントですか!? やった!!!」と、目を輝かせ、無邪気に喜びながら俺に抱き着いてきた。


「おいおい、仕事中だぞ?」と声をかけると、美香ははっとした表情をした後「も、申し訳ありません!!」と、兄貴に向かって深々と頭を下げる。


「いや、いいよ。 今日はお祝いしてもらいなね」


兄貴は優しく微笑みながら美香にそう言うと、作業場を後にしていた。


『あんな顔するんだ… 初めて見た…』


兄貴の表情に呆然としつつも、自分のデスクへと戻っていた。

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