第175話 心機一転
美香の実家に行った数日後、たまたまネットで空きができているのを確認し、すぐに温泉旅館の予約を入れていた。
美香は「安いところでいい」と言っていたんだけど、ゴールデンウィーク中だからどこも割り高。
そのことを伝えると、美香は渋々といった感じで了承をし、二人で温泉旅行に出かけていた。
大浴場でのんびりした後、先に部屋に戻っていたんだけど、美香が一向に戻ってこない。
窓際にあった椅子に座り、ビールを飲みながら川のせせらぎに耳を傾け、自然豊かな景色を眺めていた。
しばらく景色を眺めていたんだけど、美香が戻ってくる気配がなく、普段以上に長い風呂の時間に『のぼせてるんじゃないか?』と思うほどだった。
そのまま待っていると、やっと美香が部屋に戻ったんだけど、髪をアップにし、薄紫色の浴衣を着た美香は、普段とは違った色気を醸し出していた。
「…ナンパされなかった?」
「ナンパ? されてないよ? こんなところでナンパする人いないでしょ? 指輪もしてるし」
美香はそう言いながら座椅子に座り、部屋にあった周辺の観光情報を眺めていた。
「どっか行きたいところある?」と聞きながら隣にピッタリとくっつくと、美香は「近いよ…」と、少し顔を赤らめ、恥ずかしそうにしていた。
「普段もっと近いじゃん」
「そうだけどさぁ…」と言いながらも、美香の目は観光情報から離れない。
「ん? もしかして照れてる?」
「だってさぁ… 浴衣見慣れてないし… かっこいいなぁって…」
口ごもりながらそう呟く美香に、胸の奥を締め付けられ、思わず美香を押し倒し、唇に貪りついていた。
翌日は、腕を組んでのんびりと周辺を観光し、豪華な料理に舌鼓を打ち、あっという間に2泊3日の時間が過ぎていた。
帰りの車で「また来ような」と言うと、美香は「うん! あ、でも、次はもっと安いところでいいからね?」と、不安そうに切り出してくる。
「わかってるよ。 シュウジのお土産、渡してから帰るか」と切り出すと、美香は「それいいね!」と元気に返事をしていた。
シュウジの家に行き、美香がお土産を渡すと、シュウジは「おれも行きたかったなぁ」と不貞腐れる始末。
美香はそれを見て「次は一緒に行こうね」と約束していた。
ゴールデンウィークが明けると同時に、建て替え工事が終わり、新しい事務所に出勤する。
新しい事務所は1階が応接室がメイン。
すぐ脇にある階段の下には更衣室があり、階段を上ると給湯室と3つの扉がある。
1つは休憩室なんだけど、二つは作業場。
2つの作業場の奥にはドアがあり、どちらの部屋からも資料室へ行ける構造となっていた。
メインで作業をするのは右側にある第1作業場なんだけど、アニメ関係の事に関しては左側の第2作業場。
それぞれの作業場には10台ほどのパソコンが設置されていた。
散々、『帰れない』と言っていたことが効いたのか、新たに3階が出来上がり、3階には仮眠室とシャワールームが設置されていた。
ユウゴとケイスケの3人で、新しくなった第2作業場でダラダラしていると、ユウゴが「心機一転って感じだな」と声を上げていた。
すると、ケイスケが「俺も心機一転して結婚する」と、突然の爆弾発言。
「マジで? いつ?」
「来月の6月18日。 彼女の誕生日なんだよね」
「何してる人?」
「看護師。 姉ちゃんのお見舞い行ってたら連絡先聞かれてさぁ。 大地に負けないくらい幸せよ?」
ケイスケの言葉を聞くと、ユウゴは大きくため息をつき「俺も来月結婚するんだわ。 6月25日。 向こうの両親の結婚記念日だと」と、がっかりと肩を落としていた。
「なんでそんなへこんでるん?」
「俺、結婚する気なかったんだよね… できちゃったって言うからさ… 子ども好きじゃないんだよなぁ… 子作りは好きだけど…」
ユウゴの言葉を聞き、ケイスケと二人で「最低だ」「クズ人間」と言いまくっていた。
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