第171話 無責任

雪絵の勝手な行動は、美香が尻拭いしてくれたお陰で、低料金発注という形で済んだんだけど、雪絵は謝罪をするどころか、『何も知りません』という感じで作業をするばかり。


「勝手な行動をするな」と注意したんだけど、雪絵は「前のところはこうしてた。 問題なく済んだんだからそれでいいだろ」と逆切れするばかり。


この言葉にブチっと来てしまい「問題なく済んでねぇだろ? どんだけ美香に迷惑かけたと思ってんだよ!」と怒鳴りつけると、美香が俺の腕をつかみ「社長、落ち着いてください」と、囁くように言ってきた。


「問題大有りだろ? 通常の半額以下で仕事したんだろ?」


「そうだけど、今は落ち着いて。 今後、個別案件はそっちに流れないようにするから。 ね?」


心配そうに笑かけてくる美香を見ていると、何とも言えない気持ちになってしまい、大きく深呼吸をしていた。


しばらく作業をしていると、美香は内線に出た後、雪絵に向かい「光輝社長がお呼びです」とだけ。


雪絵はめんどくさそうに立ち上がり、倉庫を後にしていた。


すると美香は俺を資料棚の裏に呼び出し「彼女、相当やばいかも。 光輝社長、相当怒ってて、取引先に連絡するって言ってた」と、小声で言ってきた。


「俺的にはむしろ居なくなったほうが好都合なんだけど…」


「そういう事言わないの! だから報連相してくれないんじゃないの?」


「いや、そういう問題じゃねぇよ。 元々プライドは高かったし、常にもめ事起こしてたからな」


「ふーん。 さすが元カレ。 なんでも知ってるんだね。 妬いちゃうなぁ」


美香はそう言いながらデスクに戻り、作業を再開していた。


『そう言うつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ…』


そう思いながらがっかりと肩を落とし、美香の隣で作業を続けていた。


雪絵は厳重注意を受けたようで、泣き腫らしたような目で倉庫に戻ってきたんだけど、誰も何も言わなかった。



定時を過ぎると、雪絵はさっさと倉庫を後にし、美香とあゆみはその少し後に帰宅していた。


俺はケイスケとユウゴの3人で飲みに行ったんだけど、話題に上がったのが雪絵の事。


ケイスケは社長室に行った際、詰められている雪絵を目撃したけど、謝罪の言葉を口に出さず、泣くばかりだったようで、「あそこまでプライドが高いと感心するよな」と呆れかえっていた。



帰宅後、美香は寝る直前だったようで、立ち上がりながら「おかえり~」とだけ。


「もう寝る?」


「うん。 どうかした?」


「いや、寝ないで待ってて欲しいなぁってさ」


美香は「疲れたから寝ますよ~」と言いながら、俺の横を通り過ぎようとした。


すぐに、美香を抱きしめ「寝ないで待っててよ。 すぐシャワー浴びてくるから」と切り出すと、美香は「多分寝ちゃうと思う」と言いながら腕をすり抜けようとし、慌てて美香の腕をつかんだ。


「なぁ、結婚しよう」


「だからまだ早いって。 これからアニメ化の話も動くでしょ?」


「結婚してもできるだろ?」


「でもさ… あのプロジェクトだけは、園田のままで完遂させたいの」


「それはわかるけど… もし人気が出て、1部配信途中で2部が決まったら? 3部4部って続いたら? ずっと待ってなきゃいけねぇの? 俺は今すぐ美香と一緒になりたいって思ってんだぞ?」


「1部だけ! せめて1部だけでもさ…」


「…わかった。 その代わり、両親に会わせて。 無責任なことはしたくないから、ちゃんと挨拶したい」


美香を見つめながらはっきりとそう言い切ると、美香は露骨に嫌そうな表情をしていた。

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