第159話 無駄

応接室の配置を変え、ケイスケと二人でアニメに関係する仕事と、個人で指名の入っている作業をするようになったんだけど、それと同時にユウゴのストレスが溜まっているようだった。


というのも、俺とケイスケが移動したせいで、ユウゴに事務所内の指示を頼んでいたんだけど、雪絵は勝手に作業をし、完成品のチェックをさせることもなく、勝手に納品してしまうため、ミスがあっても手遅れの状態に。


何度注意しても「前のところではチェックなんてしなかった。 ミスがあったら修正依頼が来るんだから、その時に直せばいい」と反論してしまうため、ユウゴは応接室に来ては「なんなの? あいつ」と文句を言っていた。


俺がガツンと言わなきゃいけない立場なのはわかってるんだけど、できる限り接点を作りたくないし、取引先友人の姪っ子だから、丁重に扱わなけらばならない。


ただ、あまりにも度が過ぎているから、一言くらい言わないといけないんだけど、雪絵を前にすると、鳥肌や寒気、酷いときは手が震えてしまうため、言い出せないままでいた。



どんなに月日が過ぎても、雪絵の態度は変わらず、敬語は使わないし、勝手な行動ばかりを繰り返していた。


ある日のこと、応接室で作業をしていると、事務所の方からユウゴの怒鳴り声が聞こえてきた。


慌てて事務所に出ていくと、ユウゴは「んなに前の会社がいいなら戻っちまえよ!」と怒鳴りつけている。


が、雪絵は「潰れたって言ってんでしょ!? 人の話聞いてんの!?」と、怒鳴り返すばかり。


ユウゴを応接室に押し込み、「どうしたよ?」と聞くと、ユウゴはソファにどっかりと座った後切り出してきた。


「あいつマジふざけてんだぜ? 勝手にカオリさんの案件に手出して、納品しやがってさぁ! さっき、クレームの電話が来たんだよ。 ファイルを別にしといたのに、勝手に手出して、チェックもさせないで納品しやがってよ… 毎回毎回… いい加減にしろっつーの」


「…ホントすまん。 俺言ってくるよ」


「無駄だよ。 あいつ、学習って事を知らないから」


「言わないよりはいいだろ?」


そう言った後、雪絵のもとに行き、鳥肌を我慢しながら「完成したら、必ず上司のチェックを受けてから納品する。 それがうちのルール」と言うと、雪絵は「無駄」とだけ。


「うちは修正料込みで仕事を受けてるんだよ。 何度も修正が来たほうが無駄だろ?」


「1発OKのものもある」


「就業時間中は敬語を使え」


「なんであんたに媚び売らなきゃいけないの? 意味わかんないし」


『あ… こいつに何言っても無駄だ。 聞き入れる気がないわ』


そう思ってしまうと、相手にするのがバカバカしくなってしまう。


小さくため息をついた後、ガッカリと肩を落としながら、応接室に戻ることしかできなかった。



応接室に戻った後、ユウゴに向かって顔を横に振ると、ユウゴは「だから言ったじゃん… 今日おごれよ」とだけ。


「ああ。 好きなだけ飲んでくれ」と言った後、デスクにつき、黙々と作業を続けていた。



定時後、ユウゴとケイスケの3人で居酒屋に行き、話をしていると、居酒屋のテレビから白鳳のニュースが流れ始めていた。


テレビに映る数人の評論家が、白鳳批判を口々に放つ中、一人だけ白鳳をフォローするようなコメントを言い始めていた。


黙ったままテレビを見ていると、テレビの向こうがより一層騒がしくなり、警察官に取り囲まれた山根の姿が。


無数のフラッシュがたかれる中、記者たちは大声で山根に質問していた。


その中でも、はっきりと聞き取れるくらい、大きな声の男性レポーターが「山根さん! アニメ制作関係者に圧力をかけたのはあなたの指示だったんですか!?」と聞くと、山根は「うっさいわね!! 黙りなさいよ!!」と大声で怒鳴り返し、警察官に押さえつけられ、車の中に押し込まれていた。


「終わったな…」


そう言いながら酒を飲むと、ユウゴが「美香、何してんだろうな… そろそろ戻ってきてもいいんじゃねぇのかな…」と、呟くように言い始めた。


「いや、今戻ってきたら大変なことになるんじゃね? 超絶わがままな大地の元カノがいるし、絶対修羅場になるだろ?」


ケイスケの言葉を聞き、何も言い返せないままでいた。

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