第158話 不幸
偶然にも、雪絵が入社してきたんだけど、斜め前に座っているせいか、ずっと落ち着かなかった。
特に話しかけることもないし、あゆみが率先して作業を教えてくれたおかげで、話しかけられることもないんだけど…
たまぁに視線を感じてしまい、ふつふつと鳥肌が立ってしまう。
『やばいって… マジで無理だって…』
そう思いながら作業を続けていると、電話が鳴り響いた。
電話に応対しているときも、視線を感じてしまい、鳥肌を抑えきれず…
電話を切った後、資料室に逃げ込んだんだけど、すぐにドアが開き、雪絵が姿を現し、鳥肌だけではなく、寒気すら感じていた。
「社長ってどういう事? いつから?」
言葉に迷いつつも「…最初から。 個人事務所だったし…」と、小声で言うのが精いっぱい。
「なんで言わないの?」
「必要ないかなぁって…」
雪絵はため息をついた後、見下すように俺を見て切り出してきた。
「まぁいいわ。 やり直してあげる」
「は?」
「社長なんでしょ? 全部なかったことにして、やり直してあげる」
『いやだ』とはっきり言おうとすると、ドアが開きユウゴが「来たぞ」と声をかけてきた。
黙ったまま急いで応接室に行き、監督とヒデさん、ケイスケの4人でアニメの話をしていたんだけど、ヒデさんは俺を見て「元気ないな?」と切り出してきた。
「そんなことないですよ」
そう答えた後、しばらく仕事の話をしていると、ヒデさんは「ん~」と声に出して考えた後、「この応接室って作業場にできない?」と切り出してきた。
「昨日も光輝社長と話したんだけど、アニメ化になると、俺と監督と先生が頻繁に出入りするようになるから、他の従業員に迷惑がかかるんじゃないかなって思ったんだ。 3人だけならまだしも、女の子二人いるだろ? この部屋を、アニメ制作専用の部署にしたほうが、良いような気がするんだよね」
「いいっすね! そうしましょう!! ここにデスクとPC置けば問題ないっすもんね! すぐ取り掛かります!!」
「ん? 急に元気になったな?」
ヒデさんがそう言いながら笑うと、応接室のドアがノックされ、雪絵がお茶を運んできた。
無意識のうちに緊張してしまったんだけど、監督が急に「美香ちゃんも『アニメ化楽しみにしてる』って言ってたし、元気よく頑張っていこう!」と…
その瞬間、雪絵の動きがピタッと止まり、酷い殺気を送ってくる。
そんなことは気にせず、ケイスケが「美香ちゃんに会ったんですか?」と聞き、監督は「偶然、S駅で会ったんだ。 病院行くって言ってたなぁ。 薬でも無くなったんじゃないかな? 前に片頭痛が酷いって言ってたし」と笑いながら言ってきた。
打ち合わせを終えた後、ケイスケと話しながら配置換えをしていると、ケイスケがいきなり「あの新人、殺気すごくね?」と切り出してきた。
「俺、あいつ絶対無理だからよろしく」
「よろしくって… なんで? 大高の時、そんなこと言わなかったよな?」
「いや… あの… 実はさ… 元カノ…」
ケイスケはいきなり大声で「はぁ??」と叫び始め、慌ててケイスケの口を手でふさいだ。
「声でかいっつーの!!」
囁くように怒鳴りつけると、ケイスケも俺の真似をして聞いてきた。
「間違えて美香ちゃんの名前呼んだって言ってたあの??」
黙ったまま何度もうなずくと、ケイスケは「うへぇ」と言いながら苦い顔をした後、普通のトーンで切り出した。
「でもさ、美香ちゃんがいないときに来たってことは、不幸中の幸いなんじゃない? もしいたら居たら修羅場確定だろ」
ケイスケはそう言いながら笑い、荷物を運んでいた。
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