第149話 ちょっと

シュウジと風呂から出た後、和室に行くと、シュウジは当たり前のように「ねえちゃんも入ってきなよ!」と言っていた。


美香が迷ったような表情をしていると、親父の奥さんが和室に入り「美香さん、先にどうぞ」と声をかける。


美香は申し訳なさそうに「すいません。 お借りします」と言った後、鞄をもって浴室に向かい、シュウジは美香を浴室に案内していた。


和室には二つの布団が並んでいたんだけど、微妙な距離を保っている。


さりげなく布団をピッタリとくっつけた後、布団の上でゴロゴロしていると、シュウジが和室に入り「だあああ」と叫びながら俺に飛び掛かってきた。


「んのやろ」と言いながらシュウジに反撃し、そのままプロレスごっこに発展。


綺麗に敷かれていた二つの布団はあっという間にぐちゃぐちゃになり、シュウジは楽しそうにゲラゲラ笑い始める。


「シュウジ、ビール持ってきて」と言うと、シュウジは「おりゃあああ」と言いながら体当たりをし、持ってきてはくれなかった。


しばらくシュウジと遊んでいると、シュウジは肩で息をしながら「お水のんでくる!」と言いキッチンへ駆け出す。


シュウジの後を追いかけ、ビールを持って和室に行こうとすると、親父の奥さんが「ちょっといい?」と切り出してきた。


「最近ね、百合ちゃんがこの辺りをウロウロしてるのよ」


「百合ちゃんって兄貴の?」


「そそ。 相続のことで揉めたでしょ? あの後から家の周りをウロウロしててね… 引っ越して、しばらくは落ち着いてたんだけど、最近また見つけたみたいでウロウロし始めて… 光ちゃんが心配して、連休前に接近禁止令を出してくれたんだけど、怖いから引っ越そうかとも思ってるのよね」


「ああ。 シュウジもいるし、その方がいいよ。 あれだったら、兄貴の家の近くに引っ越したら? それが一番安心できると思う」


「やっぱりそうよね… ありがと」


「ああ」と言った後、和室に行くと、シュウジが再度飛び掛かってきてしまい、第2ラウンド開始。


せっかくピッタリとくっつけた布団は、美香が敷いてくれた時よりも遠く離れてしまい、風呂から出てきた美香は、その惨状に呆然としていた。


「シュウジ、姉ちゃん出てきたから終わりだぞ」と言うと、シュウジは「ねえちゃん! おそい!!」と文句タラタラ。


『確かに美香の風呂は長い』と思いながらも、3人で布団を綺麗に敷き直していた。


布団を少し離されたまま綺麗にした後、3人で歯磨きをし、親父の奥さんにシュウジを引き渡して、美香と二人で和室へ。


布団の上に座って携帯をいじり、アップしたばかりの動画視聴数を調べてみると、10万をとっくに超えていた。


「美香、10万超えた」と言うと、美香は俺の隣に飛んできて、携帯をのぞき込んでくる。


「ホントだ! 登録者数も7万超えてますね! OPと1話しか上げてないのにすごい!!」


「ところでさ、布団遠くね?」


「普通ですよ?」


「俺的には1組で十分なんだけど…」


「ここは社長の実家ですよ? 何言ってるんですか?」


「ちょっとだけ…」と言いながら唇を重ねると、突然扉が開き、慌てて体を離した。


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