第142話 ドッキリ

大高を切り、美香に胸を締め付けられた翌週から、お盆休みに入ってしまい、1週間の休暇に入る。


去年はかなり忙しかったため、休みの間も仕事をしていたせいで、休んだ気になれなかった。


今年は特にやる事もなく、やる事と言ったら、じいちゃんを連れてシュウジのところへ遊びに行ったり、親父の墓参りに行く程度。


『美香と温泉行くって話だったけど、どこもいっぱいで予約できなかったんだよなぁ…』


そう思いながら、じいちゃんと遊ぶシュウジを眺めていた。


すると、携帯に着信があり【ケイスケ】の文字が表示される。


『珍しい』と思いながら要件を聞くと、「隣町で夏祭りやるから行ってみない?」との事。


少し考えた後「シュウジも連れてっていいか?」と聞くと、ケイスケは少し迷ったような声を上げた後、渋々と言った感じで了承していた。


すぐにシュウジの母親に聞くと、『大歓迎』といった感じで了承をし、シュウジにその事を伝えると「しゅーぱーぼーるやる!」と下っ足らずな感じで大喜び。


「スーパーボールだろ?」と言いながら笑い、じいちゃんを送る親父の奥さんを見送った後、そのまま待ち合わせの時間を待っていた。



指定された駅の近くに車を停め、シュウジを抱きかかえて歩いていると、駅の前にケイスケの姿が見えたんだけど、その横には髪をアップにし、ウサギの模様が入った赤い浴衣を着た女が立っていた。


『彼女? 見せつける気か?』


そう思いながらケイスケに近づくと、それが美香であることに気が付いた。


「え? 美香?」


思わず声に出してしまうと、赤い浴衣を着た美香は振り返り、固まっていた。


「…隠し子? ですか?」


「違うから! 弟!! つーかなんでいるの?」


「ケイスケさんに『浴衣着て大至急こい』って… え? 本当に弟? え? え?」


ゆっくりとシュウジを降ろすと、美香はかなりパニックになったように声を上げ、シュウジは俺の足に隠れてしまう。


ケイスケが事情を説明すると、美香は「ホントに?」と何度も聞いていたんだけど、シュウジはそれを見て「にいちゃん、このひとたちだれ?」と聞いてきた。


「会社の人だよ」


「だいじなひと?」


「そそ。 大事な人」と答えると、ケイスケが「照れるなぁ」とふざけ始める。


思わず「お前じゃねぇよ」と言ってしまうと、ケイスケは「ンなこと言っていいのかなぁ?」と意味有り気に笑い始めていた。


「ホントすまん」


「わかればいいよ。 んじゃ行こっか」と言い、歩き始めたんだけど、シュウジはいきなり俺の足から離れ、美香の手を握り始めた。


「ウサギのねえちゃん、いこ」


「うん。 行こっか。 お名前は何て言うの?」


話しながら美香と手をつなぐシュウジを眺め、『いやいやいや… そこ、俺の場所だから』と思いつつも、退かすことが出来ずにいた。


美香とシュウジの後ろを歩いていると、ケイスケが「浴衣って、なんであんなに色っぽく見えるんだろうな?」と、小声で聞いてくる。


「あれはマジでやばいな… つーかなんで美香がいるって言わねぇの?」


「言ったらつまんないじゃん。 ドッキリ的な?」


「んなドッキリいらねぇし」


「んじゃ帰る?」


「ホントごめん」


話しながら神社に近づくと、辺りは人でごった返している。


「シュウジ、危ないからこっち来い」と言った後、すぐに抱き上げると、ケイスケは「んじゃ、俺、デートだから!」と言い、神社の中へ消えていった。


美香とシュウジの3人で取り残されてしまい、思わず美香と目を合わせると、美香はいきなり吹き出し「シュウジ君、何して遊ぶ?」と切り出した。


「しゅーぱーぼーる! あ! かきごおりたべる! くれーぷだ! たこやきもある!」


シュウジは目に入るものすべてを声に出し、軽くパニクっている様子。


美香は「忙しいねぇ。 んじゃ、まずはしゅーぱーぼーる探そっか」と言いながら笑い、シュウジは元気に「うん! にいちゃん、はやくいくよ!」と言い始める。


腕に抱かれているのに偉そうに言ってくるシュウジに、「はいはい。 わかったわかった」と言った後、3人で神社の中に入っていった。

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