第126話 買い出し

翌朝、軽い二日酔いの状態で目が覚め、重い体を引きずるようにリビングへ行くと、ケイスケが興奮しながら男性に話しかけていた。


「俺、ホント先生の大ファンなんですよ!!」


「そうなんだ。 ありがとう」


『この人が原作者の…』


そう思いながら美香の隣に座ると、美香はすぐにキッチンへ行き、コーヒーを入れてきてくれた。


美香が戻ると同時に先生が、「ちょっと聞いてくれる?」と切り出してきた。


先生は新OPを見て、かなり完成度が低いと感じ、出版社に文句を言ったんだけど「黙れ」と言われてしまったようで、「1話見たら内容も変えられててさぁ。 原作者に名前載ってるけど、ホワイトリリィが俺の名前を使って、好き勝手やってる状態。 出版社と白鳳が手を組んでるから、何も言えないんだよ。 放送開始したけど数字は取れてないし、怒ってコメント出したけど、もみ消されたし、ホント参ったよ。 しばらく描きたくないわ」と、ため息交じりに言っていた。


朝から黒い話を聞かされ、「うわぁ」としか言えなかったんだけど、「たとえ遊びでも、こうして必死に作ってくれてるのはすごく嬉しいよ。 みんな、ホントありがとうね」と、うれしそうな表情を浮かべていた。


するとヒデさんが「んじゃ作りますかぁ!」と言い、大きく伸びをすると、先生が「もし必要な素材あるなら、じゃんじゃん描くよ」と声をかけていた。


美香は「お願いします!」と元気に言い、それぞれがやるべき事を熟していると、大介が「美香、そろそろタルトの買い出し行けよ」と切り出し、美香はカオリさんと話した後、金を受け取り、俺と二人で別荘を後にした。


車の中で「さっき、かおりさんから金受け取ってなかった?」と切り出すと、美香は「はい。 イチゴタルトも買って来いって」と言い、嬉しそうな顔をしていた。


話しながら車のナビの通りに高速を走っていると、美香の口数が徐々に減り、眠そうな表情をし始める。


「寝てていいよ?」と言っても、美香は「大丈夫です…」と言い、必死に睡魔と戦っている様子。


「寝ろ。 社長命令」とだけ言うと、美香は「わかりました。 すいません」と言い、瞼を閉じてすぐ寝息を立てていた。


『昨日も明け方までやってたし、そりゃ疲れるよなぁ…』


そう思いながら車を走らせ、目的地から少し離れた無人パーキングに車を止めると同時に、美香は目を開け、小さく伸びをしていた。


二人で車を降り、店内に入ると、店内は甘く香ばしい香りで包まれていたんだけど、表示されている金額は甘くない。


『うわぁ… 噂通り高ぇ…』


そう思っていると、美香は当たり前のようにホールのチョコレートタルトを指さしし、「あれですよ」と切り出してきた。


そこには金箔の乗ったホールのタルトが飾られてあったんだけど、その金額に目を疑ってしまった。


疑ったところで安くなるわけでもなく、品物が変わる訳でもない。


イチゴとチョコタルトを購入した後、車に乗り込み「贅沢な買い物だな」と切り出すと、美香は嬉しそうに「本当ですよね」と笑いかけてくる。


話しながら別荘に向かう途中、ふと『ドライブデートみたいだな』と思うと、このままどこかへ行ってしまいたくなる。


「美香、このままどっか行こうか」


「ダメですよ。 タルト腐っちゃいます」


思い切って切り出したことを、すぐに否定され、ガッカリしながら「だよな」とだけ言うと、美香は「今度… 落ち着いたらどっか行きましょうか」と、笑顔で言ってくれた。


その一言に、胸が締め付けられるような感じがし「ああ」とだけ告げ、話しながら別荘に向かっていた。

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