第127話 苦い思い出
美香と買い出しに出かけた後、別荘に戻ると、ケイスケが指示を出し、みんなは黙々と作業をしていた。
すぐにパソコンの前に移動し作業をし始めると、美香はキッチンに行った後、コーヒーを2つ運び、一つを俺に手渡し、作業を始めていた。
作業といっても、毎晩のように4人で作成していたせいか、それほど時間がかかることもなく、原作者の先生が不足していたイラストを描いてくれたおかげもあって、夕食前には完成させていた。
食後のデザートに、2種類のタルトを食べながら、完成した動画を見ていたんだけど、かなり完成度が高く、これにヒデさんのライバル心に火がついてしまい、明け方まで作業を強いられてしまう始末。
ヒデさんはケイスケに動画作成やコツを教えながら、こっちに指示を出していたんだけど、ふと気が付くとどこかに消えていた。
それに気づいた勇樹が「あれ? ヒデさんとケイスケは?」と聞いてきたんだけど、みんな作業に集中していたせいかどこにいるかわからず。
監督と先生、カオリさんまでもが姿を消していて、ユウゴは寝室を見に行った後「寝てるよ」と言い、寝室の中へ消えて行った。
それを合図にするように、みんなはぞろぞろと寝室へ消えて行く始末。
残されたのは俺と美香だけだったんだけど、俺に限界が来てしまい、「先寝るわ」と言った後、すぐに寝室へ行き入り口から一番近い布団に潜り込んだ。
『この雰囲気、修学旅行みたいだよな…』
そう思いながら目を閉じ、しばらくすると、突然腹部に軽い衝撃が走る。
『ユウゴの足?』と思いながら目を開けると、腹の上に美香の頭が乗っていた。
美香は布団に入ることもせず、俺の腹を枕にし、片足がドアに挟まっている状態。
小声で名前を呼び、起こそうとしたんだけど、カオリさんの「うるせぇ!」という怒鳴り声が響き渡り、声を出すことができなくなってしまった。
どんなに肩を揺すっても、美香は爆睡しているようで、まったくと言って良いほど起きる気配がない。
仕方なく美香を抱え上げたんだけど、その軽さに驚きを隠せなかった。
『こんな小さい体で、毎日頑張ってるんだよな…』
そう思いながら美香を布団の中に入れ、すぐ隣の布団に潜り込んだんだけど、ふと高校の修学旅行の時のことが頭に過った。
同じ部屋の誰に話しかけることも、話しかけられる事もなく、ただただイライラし、時々ケイスケが様子を見に来る程度。
同じ班のやつは、女子の部屋に遊びに行ったり、別の部屋に遊びに行ったりしていたけど、どこに行くでもなく、部屋で一人っきりだったことを思い出していた。
『あの時、美香の部屋に行きたかったけど、怖くて近づけなかったんだよな… 今はこんなに近くにいるし、髪にも、唇にも触れられてるって、あの頃の俺だったら考えられないよな…』
そう思いながら美香の布団に潜り込み、美香を抱きしめながら眠りについていた。
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