第118話 呆然

別荘の中に入り、リビングを見た瞬間、ユウゴとケイスケの3人で呆然と立ちすくんでいた。


リビングには10台以上ものパソコンと書類、そして専門用語が飛び交っている。


中で指示を出していた男は美香を見るなり「美香! 何してんだ遅ぇぞ! 早く3D起こせ」と怒鳴り、美香は「すぐ行く!」と返事をした後、パソコンの前に座り作業を始めていた。


ユウゴは「え? 副業?」と言ってきたんだけど、首を傾げることしかできなかった。


しばらく呆然としていると、先日、会社に来た監督が「おお! 社長さんじゃないですか! 美香、借りてますよ」と笑顔で告げてきた。


「あの、これは何をしてるんですか?」


「例のアニメのOP作ってるんですよ。 最初は美香とケイコの2人でやってたらしいんだけど、カオリからその話を聞いて、みんな集まっちゃったんです。 2期のOP酷かったですからねぇ… あ、これから飯にするから、手伝ってもらえますか?」と言い、監督はキッチンの方へ向かってしまう。


いまいち状況がよくわからないまま、監督に言われるがまま夕食の手伝いをし、大皿に盛られた食事を並べると、その場にいた全員はビュッフェのようにトレーを手に取り、次々に食事を取っていく。


ケイスケが「え? 俺らも入っていいの?」と言いながら周囲を見回していると、ヒデさんが「ほら、飯にするよ」と声をかけてきた。


理解が追い付かないまま食事を取り、全員は食べながら打ち合わせのような会話を始める。


美香は食べながら絵コンテを見て「だいちゃん、ここの背景ってどうするの?」と聞いてきた。


『だいちゃん?』と思っていると、部屋に入るなり、いきなり美香に怒鳴りつけてきた男が「ここは先生の書下ろしがあるからそれ使う」と言い、美香は「ふーん」と声を上げるだけ。


すると監督がテレビに映像を流しはじめ、「ここはこうしたほうが良いな」とアドバイスをしていた。


これにケイスケが気付き、「もしかして、2部のOP?」と聞くと、そこにいた女の子が「そうだよ。 悔しいから遊びで作ってるの。 ってか、成金のボンボンがいる!」とユウゴの事を指さし、大声を上げた。


ユウゴはハッとしたように「あー! こないだの無礼者!」と言い出し、軽く口論となっていた。


食事をとり終えた後、ヒデさんから「ここ座って」と、ユウゴと並んで美香の隣に座らされ、編集作業を手伝わされる羽目に。


ヒデさんは「遊びだから飲みながらやってよ」と言いながら、缶ビールを手渡してきた。


『いやいや… 基本的な説明くらいしようよ…』


そう思いながらも手を動かしていると、ユウゴが美香に小声で「いくらもらってんの?」と聞いていた。


美香は「遊びだからノーギャラですよ? 食費も割り勘だし、後日請求が来るはずです」と笑顔で言うと、ユウゴはがっくりと肩を落としていた。


しばらく作業をしていると、周囲は順番に風呂に入り始めたんだけど、完全に勢いでついてきてしまったから、着替えなんかない。


ケイスケに至っては、スーツで来てしまったから、かなり窮屈そうにしていた。



美香は風呂から出てきた後、水を飲みながら椅子に座る。


「いつもこんな感じ?」と聞くと、「そうですよ」と普通に答えていた。


「大家族みたいだな」


「ですね。 みんな有給使って昨日からここにいるみたいです。 羨ましいなぁ」と何かをアピールするようにチラチラ見てくる。


無言でそっぽを向くと、美香は「あれ? おっかしいなぁ… 有給あるはずだよなぁ…」と、ぶつぶつ言いながら作業を始めていた。

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