第61話 口喧嘩
ユウゴが美香を弄り始めてから数日経った頃。
週末の勤務時間中にユウゴが美香に仕事の相談をし、美香がそれに答えていた。
なんてことはない、普段の日常そのものだったんだけど、美香が「それで差し支えないかと思います」と言った瞬間、ユウゴの「硬い!」と言う言葉が響き渡った。
『仕事中はやるなって…』
そう思いながら少し呆れ、ユウゴに注意しようとすると、これに怒った美香がユウゴに怒鳴りつけるように言っていた。
「業務中なんだからいいでしょ?」
「良くないから言ってんだろ? 大体なんだよその『それで差し支えない』ってよ。 『それでいいと思います』で良いじゃねぇかよ」
「遊びじゃないんだから、丁寧な言葉遣いをするのは常識でしょ?」
「だから硬すぎるっつってんの! ここに来てから3か月以上経ってんだろ? もっと軽くなれよ!」
「だから遊びじゃないって言ってんでしょ!?」
「どこぞの大企業とは違うって言ってんだよ! 風が吹けば倒れるような会社で、そんな言葉使いするんじゃねぇって言ってんの! 大体お前はなぁ! 大企業出身だか何だか知らねーけど、ここはどうしようもない奴らの集まりだろ!? いつまでもいい子ぶってんじゃねーよ!!」と叫ぶユウゴを抑えていたんだけど、美香はこれにキレてしまい、収拾がつかなくなってしまった。
「むかつく! ホントむかつく!」
「ああ、ムカつけほら。 いい子ぶってるだけでなんもできねぇ癖によぉ。 どうせ俺に勝つことなんかできねぇんだろ?」
「勝てるもん。 仕事の速さなら絶対勝てる」
「んだとコラ。 上等だよ。 勝負してやんよ」
ユウゴはそう言いながら椅子にドカッと座り、新しいファイルに手を伸ばし、美香もつられるようにファイルに手を伸ばす。
「ズルすんじゃねぇぞ」とユウゴが言うと、美香はまっすぐにモニターを見ながら「わかってます」と答えた。
『こいつらアホだ… もう放っておこう…』
そう思いながら自分のデスクにつくと、二人はものすごい勢いで作業を始めていた。
あゆみは少し楽しそうに二人を見ていたけど、浩平は完全に美香にビビってしまったようで、一切美香のほうを向こうとはしない。
そりゃ、自分よりもはるかにデカい男に食って掛かるんだから、浩平のような小心者がビビるのも頷ける。
美香は2時間ほど経った後「終わりました。 チェックお願いします」と告げ、小さくため息をついていた。
ユウゴは「え? 嘘だろ?」と、疑うように聞いていたが、美香は勝ち誇ったように「本当です。 クオリティは落としてません」と言い切っていた。
美香が作ったばかりの動画をチェックすると、普段とクオリティは落ちていないし、修正箇所も見当たらない。
「本当に早いなぁ。 感心するわ」と言うと、ユウゴはさっさと動画を完成させ「もう一回勝負じゃぁ!」と、再度勝負を挑み、美香も了承していた。
『そういや、部活の時、顧問に食って掛かってたよなぁ… あの時よりも強くなってる感じがするけど…』
懐かしい記憶を思い出しながらも、作業を続けていると、またしても美香が「終わりました」と言い、ユウゴが再度勝負を申し込む。
仕事が早く片付くからいいんだけど、二人は定時を迎えても勝負を続け、ケイスケが買ってきた弁当に目もくれず、永遠と勝負をし続け、美香は終電を逃していた。
不幸中の幸いと言えば、仕事が思ったよりも早く片付いたことと、明日が休みって言うことくらい。
ユウゴは作業を終えると、休憩室のソファに倒れたまま、動くことはなかった。
美香に「泊まっていく?」と聞くと、美香は疲れ果てた表情をしながら「タクシーで帰れる範囲内なので大丈夫です」と言い、ふらつきながら事務所を後に。
慌てて美香を追いかけ、駅にあるタクシー乗り場まで見送った後、『慣れてきたってことなのかな?』と考えながら、家路についていた。
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