第45話 役員会

浩平から金を貸してほしいと言われた定時後、浩平は当たり前のように休憩室に行き、何も言わずに大量のビールを持って帰っていた。


それを見ていたユウゴが「黙って持って行くとか何様なんだろうな?」と呆れながら言い、ため息をつきながら休憩室に移動した。


ケイスケとユウゴは休憩室に入るなり、缶ビールを手に取り、俺に手渡してくる。


「電車でたまにアキラと会うんだけど、浩平、アキラに金借りてるみたいだね。 姉貴がどうのって言ってたらしいよ?」と、ケイスケは耳を疑うことを言い始めていた。


「姉貴? 兄貴じゃなくて?」


「姉貴。 あいつ、兄貴いないよ」


「兄貴が事故って入院してるから、給料前貸ししてくれって言われたんだけど」


「え? マジで?」


「マジ。 兄貴の許可がいるって言ったら、個人的に貸してくれって」


「最悪だな。 あいつ」


ユウゴは俺とケイスケの話を聞き、呆れながらビールを飲んだ後、俺に切り出してきた。


「で? 貸すの?」


「貸すわけねーだろ?」


「じゃあさ、もし、美香が『貸して』って言ってきたらどうする?」


「貸す」


「お前さ、腹括ってねーだろ?」


ユウゴに図星をつかれ、黙ったままビールを飲みこんだ。


ケイスケはそれを見ながら「ま、いきなり腹括れって方が無理なんじゃない? 長かったもんな? 高校入学してすぐだから、3年以上だよな?」と言い出し始め、返事の代わりにビールを飲みこんだ。


すると、ユウゴが急に不思議そうな表情をし「そういやさ、美香って俺らの事、覚えてないのかな?」と切り出した。


ケイスケは「俺もあの一件以降、全く話してないし、忘れててもおかしくないかもね。 前職で、血吐いて倒れるまで働いてたって話だし、古い記憶ってどんどん無くなるじゃん?」と言ったんだけど、ユウゴは「なーんか違和感あるんだよなぁ・・・」と呟くように言っていた。


「笑わないからじゃね? こっちに来てから、まだ1回も笑ったところ見てないし、完全に敬遠っていうか、怯えてるような感じだし。 元々、人見知りするところがあるから、そのせいかもしれないよな」


自分に言い聞かせるように言うと、ユウゴはニヤニヤと笑いながらこっちを見てくる。


「なんだよ?」


「高校時代、大して話したこともない癖によ~くご存じで。 ずっと見ていらしたんですかぁ?」


「うっせーよ」


するとケイスケが「それより、今日親会社でなんか言われた?」と話の軌道を仕事に変えていた。


兄貴に言われたことを言うと、ユウゴとケイスケは「まぁ言われるわな」と呆れながら言い「どうしたもんかねぇ」とため息交じりに呟いていた。


「とりあえずは飛び込みやらせて、適当なところで最後通告するよ。 どうせ行かないと思うけどな。 その後は知らね」


二人は俺の意見に同意し、そのまま3人で話しながら飲み続けていた。


少し話した後、ケイスケが「あとはあゆみか… あゆみって家でないの?」と切り出し、ユウゴが答えていた。


「あの親が苦しんで野垂れ死ぬところを、見てやるんだってさ。 助けを求めてきたら、唾を吐きかけるつもりらしいぜ? ま、それだけの事をしてるんだけどな」


「あいつが一番恐ろしいかもな」


笑いながらそう言うと、ユウゴは少し考えた後「俺は美香が一番怖いかな… あいつ何しても笑わないし、何考えてるかわかんねぇし、大地の報復も怖ぇしな」と言いながら笑いかける。


「否定はしない」とだけ言い、3人で従業員について話し続けていた。

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