第36話 再会
浩平と飲みに行った数日後。
前夜に準備していた素材をクラウドに移動し、朝の準備をしていた。
始業時間を迎えて少し経った頃、ユウゴが「なぁ、サーバー逝ってない?」と切り出してきた。
クラウドを開いてチェックすると、エラーが起きてしまい、何もできない状態になっていた。
「あれ? マジだ。 兄貴に聞いてみるわ」
そう言った後、兄貴に電話で確認すると「そっちもか。 原因がわかり次第連絡する」とだけ言い、電話を切ってしまった。
ユウゴに「後で連絡するって」とだけ言い、納品期限間際の作業を進めていると、携帯が鳴り、液晶に【美香】と表示されていた。
慌てて2階に駆け上がり、電話に出ると、美香は困った様子で「動画送れないんですけど、サーバーの問題ですよね?」と聞いてきた。
「そうなんだよね。 今、兄貴に聞いてるんだけど、まだ返事がなくてさぁ…」
「このデータ、今日中に必要なんじゃないですか?」
美香の言葉を聞き、ふと『これをきっかけにしたら会えるかも?』と思いついてしまった。
「そうだ… やべぇ… 家ってどこ? これから出なきゃいけないから、ついでに取りに行くよ」と言うと、美香は間髪入れずに「え? 無理」と即答。
『ですよねぇ…』と思いながらも、悩むふりをしていると、美香は「会社に届けるよ」と切り出してきた。
「体調、大丈夫か?」と聞きつつも、胸が弾んで仕方がないんだけど、美香は「大丈夫だよ」と普通に答えていた。
『無理をさせちゃいけない』という気持ちと、『会いたい』という気持ちが入り混じる中、何度も「大丈夫か?」と確認していると、美香は「ええ… やっぱやめようかな…」と不安そうな声を出し始めた。
『やめようかなって会えないってこと? いやいやいや、俺が無理』
そう思いながらもふと時計を見ると、納品期限間際の時間。
慌てて「やべ! 時間だ! 住所はメールするから頼むな」と言った後、電話を切ってすぐにメールをし、1階に駆け下りた。
『美香が会社に来る』
そう思うだけで、胸が弾み、自然と手の動きが早まっていた。
しばらく作業をしていると、ケイスケが「社長、ちょっといいですか?」と切り出し、休憩室に行くと、ケイスケは1枚の紙を手渡してきた。
「来週、得意先が打合せしたいって言ってきてるんだけど、大地、行けそう?」
「来週はかなり厳しいな… ユウゴとケイスケも無理だし… 浩平に行かせるしかないか…」
「大丈夫かな? あれに行かせて」
「打ち合わせの時、ボイレコに録音させるしかないな。 そうすれば監視されてるって思うだろうし、連絡ミスもなくなるだろ」
「OK。 んじゃ伝えとくわ」
そう言った後、ケイスケと休憩室を出たまでは良いんだけど、あゆみが泣きそうな顔をしながら「ケイスケさぁん、動かなくなっちゃいましたぁ~」と大声をあげていた。
ケイスケに「そっちやっといて。 こっちやるから」と言った後、あゆみの後ろに立ち、作業を教えていた。
何度教えても、あゆみは「わかんないぃぃ」と声を上げるばかり。
「だからぁ~ ここのセルがあんだろ?」
「セルって何?」
「ここのマス目!!」
「・・・・・」
「聞いてんのかよ?」と聞くと、あゆみはドアのほうを向いて「何か御用ですか?」と声をかける。
ドアのほうを向くと、軽くパサついたミディアムボブヘアの髪をしている、小柄でかなり痩せた女は、肩にかけたカバンを両手でしっかりと握りしめて俯いていた。
『誰だあれ?』
そう思いながらよく見ていると、小柄な女は少しだけチラッとこちらを見た。
やせ細った顔には、ハッキリとした二重瞼と小さな唇、全体的に少し幼く見える印象の顔には、うっすらと化粧がしてある。
『美香だ!!』
記憶の糸を一瞬で手繰るように、過去の記憶がフラッシュバックされ、一気にテンションが上がり、慌てて美香に駆け寄った。
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