第27話 訃報
ユウゴとケイスケの3人で仕事を回すようになった数か月後。
朝の準備をしていると、携帯が鳴り【兄貴】と表示されていた。
兄貴は電話に出るなり「今すぐ爺さんとA総合病院に来てくれ」とだけ言い、すぐに電話を切ってしまった。
2人に「ちょっと出てくる」と言った後、じいちゃんを連れてタクシーに乗りこみ、真っすぐに言われた病院へ。
病院についてすぐ、受付の前にいた兄貴を見かけ、声をかけると「こっちだ」としか言われなかった。
けど、兄貴がエレベーターのホールボタンを押したとき、嫌な予感がした。
病室に行くとしたら、上ボタンを押すはずなのに、兄貴は何の迷いもなく下ボタンを押す。
『地下? まさか霊安室?』
そう思いながら3人でエレベータに乗り込み、個室に向かうと同時に、視界に入ったのは、ベッドで白い布をかぶせられてる人と、その横で泣きはらした顔で呆然としている親父の奥さんの姿。
じいちゃんは何の迷いもなく、顔に被せてあった布を取ると、傷だらけになった親父の眠っているような顔が現れていた。
「・・・なんで?」
「交通事故。 昨夜、飲酒運転の車に轢かれたらしい。 検案があったから、さっき引き渡された」
何の言葉も出て来ず、ただただ呆然とすることしか出来なかった。
ユウゴとケイスケにメールでこの事を告げると、ケイスケは【こっちは心配しないでいいから、そっちに居な】とだけ返事をくれた。
少しだけ安心をしながら、しばらく実家に居ることに。
兄貴は親父の奥さんをサポートするように、葬儀の段取りや書類の手続きを熟し、俺はじいちゃんのそばにいることしか出来なかった。
じいちゃんは、息子の突然の訃報にも拘らず、一切涙を流すことなく、ずっと親父の姿を見ているばかり。
葬儀の時も、じいちゃんはずっと行く末を見守るように、遺影を見つめているだけだった。
葬儀場での通夜を終え、2階にある待機室に行こうとすると、親父の会社の従業員たちが、コソコソと話している声が聞こえてきた。
「交通事故ですって。 社長まだ若いのに…」
「次期社長は光ちゃんかしら?」
「引継ぎもしてたみたいだし、光ちゃんなら安心よね…」
反論しようかとも思ったけど、言い返す言葉が思い浮かばず、ただただ黙ってその場を後にしていた。
数時間後、兄貴と飲みながら会社の話をしていると、寝てたと思っていたじいちゃんが突然現れ、俺の隣に座るなり「あの家を光輝に、マンションを大地に相続する」と切り出してきた。
形見分けのつもりなのかはわからないけど、突然切り出されたことにビックリしていた。
「家を相続って、じいちゃん、どこに住むの?」
「施設に入るよ。 行く行くはそうするつもりだった」
じいちゃんは寂しそうに言った後、ゆっくりと立ち上がり、寝室に向かっていた。
兄貴はじっと扉の向こうを睨むように見つめ、小さく溜息をつくだけだった。
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