第28話 出発

親父が亡くなった数週間後。


じいちゃんは兄貴が探した施設に入り、楽しそうに暮らしているようだった。


その数日後には、弁護士を交え、親父の奥さんと兄貴、兄貴の嫁と俺の4人で相続について話していると、兄貴の奥さんが「結婚して1年も経っていないのに、5割持っていくっておかしくないですか?」と切り出してきた。


弁護士が「当然の権利です」と言うと、止めようとする兄貴を無視して、兄貴の嫁は親父の奥さんを睨み「これが狙いだったんでしょ? だから年の差婚したんでしょ?」と急に切り出してくる。


親父の奥さんは「相続放棄します。 必要ありません」と言い切っていたんだけど、兄貴がこれを引き留めていた。


『最初は大人しそうな感じだったけど、兄貴の嫁ってやばい奴だったんだ… なんか印象変わるなぁ…』


そんな風に思いながらも、兄貴と弁護士が進める話を聞いているだけだった。


結局、親父の奥さんが全体の半額を相続し、じいちゃんの家と会社を兄貴が相続。


残った親父の遺産と、じいちゃんのマンションを俺が相続したまでは良いんだけど、親父とじいちゃんの相続税の金額に驚くばかり。


ただ、兄貴の奥さんは納得がいかなかったようで、「私の取り分がない!」と騒ぎ立て、兄貴はうんざりしているようだった。


弁護士との話を終え、立ち上がろうとすると、親父の奥さんが「光輝君、大地君、ちょっといい?」と切り出し、兄貴と俺だけをその場に残していた。


兄貴が「どうしたんですか?」と聞くと、親父の奥さんは「…実は妊娠してるの。 半年後に弟か妹ができる」と、言いにくそうに言い、兄貴が眉間に皺を寄せながら聞いていた。


「親父はそのことを知ってたんですか?」


「もちろん知ってたわよ。 安定期に入ったら言おうって約束してたんだけど…」


「あの家に住み続けますか?」


「ううん。 あの家は2人で分けて。 私は別の場所に引っ越すわ」


「…わかりました。 引っ越し先が決まったら、家を売った金でそこを買い取ってください。 仮にも弟なんだし、不自由のない生活をさせたいです」


兄貴の提案に、奥さんは納得がいかない様子だったけど、半ば強引に納得させられていた。



それから数か月が過ぎ、俺に弟が生まれ、じいちゃんと一緒に見に行っていた。


生まれたての子どもを抱くなんて、今までになかったし、これからも無理だと思っていたから、本当にかわいくて仕方がなかった。


じいちゃんも孫の誕生が嬉しかったようで、抱いたまま離そうとしない。


名前は、親父が生前につけていたという『修治シュウジ』に決めていたようで、じいちゃんも「いい名前だな」と、孫を抱いたまま、嬉しそうに言っていた。


「もう帰るよ」と声をかけても、じいちゃんは聞こえないふりをして、ずっと孫を抱き眺めるばかり。


結局、時間ギリギリまで病室に居たんだけど、じいちゃんを施設に送った帰り際「一人じゃいろいろと大変だろうから、何かあったら助けてあげなさい」と、少し寂しそうに言ってきていた。


それ以降、2週間に一度、休みの日にはじいちゃんを連れて、親父の奥さんが引っ越したマンションに行き、シュウジと遊ぶばかり。


ユウゴとケイスケに「弟がめちゃめちゃかわいい」という話をしたら、「お前はどう足掻いても、子ども作れなさそうだもんな」と、同情されてしまった。



23の誕生日には、ユウゴがケーキを買ってきてくれたんだけど、ユウゴはほとんど一人で完食し、誰の誕生日だかわからなくなっていた。


誕生日を迎えた数日後、兄貴に呼ばれ、新しくなった兄貴の会社に行き、まっすぐに兄貴のいる社長室へ。


佐山さんに挨拶した後、社長室に入ると、兄貴がいきなり切り出してきた。


「大地のいる部署。 あの場所のまま子会社化しろ」


「え? なんで?」


「税金対策。 大地が社長になれ」


「は? いきなり過ぎね? 俺、社長なんかわかんねぇよ?」


「細かいことはこっちでやる。 再来月には動けるようにしておけ。 それと編集のできる新しい人材も確保しろ」


兄貴はそう言うと、どこかへ行く準備を始めてしまった。


「強引すぎねぇ?」と言っても、兄貴は聞こえてない振りをして社長室を出てしまい、ため息だけが零れていた。

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