ミシン屋さん

春嵐

01 ミシン屋さん.

「いらっしゃいませぇ」


 イケメンの男の人。


 ほぼ全裸。


「おねがいします。また破れちゃって」


「聖服ですね」


 この平和な世の中に。なんでこう、ほぼ全裸で殴り合うのか。全く意味がわからなかった。


 精霊を使って、聖服というのを来て、戦う。服の布面席が少ないほど使える精霊の数は増えるけど、結局肌露出が増えるのでダメージに対して弱くなる。


 こんなよく分からないルールで、なぜ男たちは戦うのか。


 全然意味が分からない。露出狂同士が自分達の裸体を見せつけて遊んでいるだけのように見える。


「脱いでください」


「はい」


 イケメンの男の人。奥の着替え室に隠れて、そして、仮の服を着て出てくる。目の前で着替えてもいいのに、なぜか恥じらいまでここに持ってきている。


「こんなに顔もスタイルもいいのに」


 ほぼ全裸で戦い始める。この平和な世に。


「え?」


「いえ。なんでもないです」


 手渡された超攻撃特化ブーメランパンツみたいなのを、縫っていく。


「いつもいつも。ありがとうございます」


「いいえ」


 すぐに、縫い終わった。


「はい。どうぞ」


「ありがとうございます。これでまた戦える」


「まだ、やるんですか?」


「どうしても、戦ってみたい相手がいるんです」


 ほぼ全裸でか。


「その人は、伝説になってて。戦う以前に、その姿を見ることすら、むずかしいんです」


「へえ」


「それでも、どうしても見たくて」


「おとこのひとって。ばかなんですね?」


「いえ。いかがわしい目的ではなく。純粋に戦いたいんです」


「じゃあ、こんな聖服とか精霊とかに頼らないでやればいいのに」


「それじゃあ意味がないです。身体を引き換えにしてこそのカタルシスというか、そういう、戦うものだけの極致があるんです」


「極致」


 たえきれず、わらってしまった。


「いや、ごめんなさい。つい」


「いえ。たしかに、まあ、はずかしくないといえば、うそになりますけど。でも、案外やってみると、たのしいんですよ、これが」


「そうですか。健闘をお祈りしています」


「ありがとうございます」


 男の人。


 元気よく店を出ていった。


「はあ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る