第10話

 腕を組み、遺体を眺めながら考え込む朱里を横目に、417号は小さく自分自身に向かって呟いた。

「X線モード、内部の異物情報収集中……」

「異物情報三件、内データ確認一件。データ抽出開始」

「データ抽出中。死因情報更新、高圧電流による神経系の異常を確認、複数の刺し傷を確認、内数箇所動脈損傷」

「データ抽出完了。照合するには基本データが必要です」

 朱里はぶつぶつと何かを呟きつつ遺体を見たまま動かない417号の様子を暫く見ていたが、少し心配になって声をかける。

「で、どんな感じだ? ってか具合が悪いとかじゃないよな」

「体に異常は発生していない、情報収集していただけ。チップのデータ抽出を完了した。しかし、データはあるが照合すべき基本情報が無い。朱里はもっていないのか」

「単なる商人の俺がもっているわけないだろ。あるとすればブラーマの管理センターだが」

「ではそこから引き出そう」

「簡単に言ってくれるけどブラーマのプレートには俺でも滅多に入れないんだぞ」

「プレートに移動する必要は無い。端末さえあればダイブ出来る」

 朱里にとっては417号の言うことは良く分からなかったが、簡単なことだと宣言してしまう417号に感心して大きな息を吐いた。

「しかし人造人間っていうのはなんだかよく分からないけど凄いな。万能で便利な機械みたいだ。俺に出来ないことをすんなりやってのける」

「そんなことはない。朱里が世界を教えたからオレは行動できる。朱里が居なければオレは何もできない」

 嘆いてみたつもりが、きょとんと当たり前のように言ってのける417号に朱里は逆に恥ずかしくなって照れ笑いをしながら頭を掻いた。

 そんな朱里の行動はあまり少女には理解できずじっと朱里を眺めていたが、その視線に気づいた朱里が咳払いをして話題を変えた。

「それで端末だっけ?」

「管理センターへ通じる回路が必要だ。しかしここには管理センターにダイブできるような機器が見当たらない。機械は沢山あるけれど、全部オレのカプセルとつながっているだけで意味がない。朱里、何か知らないか?」

 知らないかと言われてもあまりこういうことに詳しくない朱里には思い当るところが無い。しばらく考え込んでいた朱里は目に映ったクジラであろう遺体を見て思い出す。

「そういえば、最後にクジラにあった時に『万一のことがあれば』と預かった鍵があったな。あれはどうだろう? もしかすると何かの機械が隠されている場所の鍵の可能性もあるだろ?」

「うん、じゃぁ、何処の鍵なのか探そう」

「ちょっと待てよ、えっと、確か此処に……」

 朱里は腰のベルトポーチをさぐり、クジラから預かった鍵を出した。出された鍵はカード型で、その中心部分にぼんやりとした青く光る所があった。


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