27日目 夜

チェルシー・ヴィンセントの日記 27日目 夜




 以前に日記を書いてから、更に2週間程が経とうとしている。自身の継続力の無さに苦笑せざるを得ない。とはいえ、こちらに来てからの日々は猛烈に過ぎていくので、致し方ないと言い訳させてもらいたい。


 この2週間で、アタシ達が攻略した魔域の数は1つから一気に4つまで増えた。山岳、森林、平原、湿地……それぞれの主までもを討伐し、アタシ達の名前は既に一部の都市では知られたものになっている。破竹の勢い、と言って過言では無いだろう。


 ルーとセリーナは、鉄道ギルドから依頼を受けて、平原、山岳、湿地、荒野の魔域を攻略するのが目的だそうだ。その内3つは既に攻略し、残るは荒野のものだけとなっている。そして明日からはその荒野の攻略へと踏み出すつもりだ。今まで通りに魔域の攻略が上手くいき、依頼を達成した時、果たして彼女達はアタシ達とまだ行動を共にしてくれるだろうか……。


 ボルツの仇は、まだ見つかっていない。しかし予感があった。もうすぐ彼と“暗き底の主”との因縁にも決着がつくのではないか、と。ミスティックを気取るつもりはないが、アタシの勘は良く当たるのだ。忌々しい私の“魂”に、何かを吹き込まれているのかもしれない。


 トゥルゥはよく付いてきてくれていると思う。故郷のために魔神への反攻作戦に参加しようとする気持ちはわかるが、そんなものアタシや他の連中に任せて、自分は故郷で平和を祈っていても良いだろうに。いや、それが出来ないからこそ、アタシ達に同行してくれているのだろうが……。


 モッスはというと、様々な“壁の守人”達の遺品を回収し、知的好奇心がくすぐられて仕方が無いと言った風である。魔域を攻略していくことが即ち遺品の収集に繋がるために、それに対しても積極的だ。守人達に感情移入し過ぎるのは、あまり良くない傾向のように思えてならないが、アタシが口を出し過ぎるのも良くないだろう。


 アタシの人捜しも、ともすれば荒野で終わりを見るかもしれない。ヴィルマは邪教団に連れ去られ、魔神の生け贄にされている可能性があるという情報を掴んだ。何にせよ、生死は確かめなければならない。無論生きていれば助け出さなければならないだろう。しかし彼女は賢かったはずだから、生け贄ではなく、もっと他のことをさせられているかもしれない。彼女の体にも心にも、消えない傷が出来ていないことを祈るばかりだ。


 “もう1人のアタシ”は、もうすっかり鳴りを潜めている……とは言えないだろう。確かに明確に性格が豹変することは無かったが、しかし、こちらに来てからの苛烈な暴力の日々は、“彼女”が好むのに相応しい状況だった。


 平原の奈落の魔域を攻略した時、守人のカティアの話題になった。彼女はあの出来事の後、英雄と信じていたキャラウエイを殺害する。それに対して複雑な表情を見せたモッスに、アタシは「殺したくなるのも、死にたくなるのもわかる、あの世でもう一度殺したくなるくらいだ」というような意味合いのことを言った。今考えれば酷い言い分だ。成人して間もない少年に、もう少し優しい言葉がかけられなかったのか。以前のアタシなら、考えられない発言だった。軍を辞め、恋人に振られ、心がやさぐれている部分は確かにあるだろうが、それにしたって、あれはまるで“もう1人のアタシ”のようだった。


 暴力と戦いの日々の中、“アタシ”と“彼女”との境界は――――――(ここから先は、涙でインクが滲んでいるために読めない)

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