第263話
正面に現れる神社……先日、ミミルと前まで来て開門していなかったので入ることができなかった場所だ。
いま通ってきた商店街にあった店名が書かれた提灯が沢山ぶら下がっていて、とても派手な印象を受ける。
入口正面に見えるのは拝殿、中に入ると右側に
「……ここもしょーへいの先祖?」
「まあ、そうだ。俺の先祖の家だったところが神社になったんだが、二度移転してこの場所になったんだ」
「なぜ移転した?」
「都市計画だな……」
昨日の神社は菅原道真の没後、藤原氏により
こちらの神社は菅原道真の生家が道真の没後に歓喜寺となり、六条河原院の中に移転。その後、豊臣秀吉の都市計画によって現在の場所へと移転したものだ。
六条河原院は源氏物語の光源氏のモデル、
境内入って左手にある錦の水を手水として使い、お参りをする。
ミミルは昨日教えた通りに
こちらを見上げるミミルの表情には「ちゃんとできてる?」という不安気な様子はなく、「どうだ、見たか」という自信が溢れている。
だが、これで「よくできました」と頭を撫でると怒られるんだから、リアクションに困る。
〈ここは魔素がないよな?〉
〈うむ、魔素はない〉
やはり昨日の
「じゃあ、昨日の御礼だな」
「……ん」
昨日と同様、ミミルも
二人揃って二礼二拍手。
(ミミルが日本語を話せるようにしてくださり、ありがとうございます)
胸中で御礼を述べ、一礼してミミルを見る。
今日は何もなかったようで、ミミルも少しぎこちない礼を済ませたところだ。
「魔素ない。声とどく?」
「どうだろうな……でもこういうのは気持ちの問題だよ」
「きもちのもんだい?」
「ありがとうと思うことが大事ってこと」
「……ん、わかった」
見上げるミミルの目がとてもキラキラと輝いている。カラコンのせいもあるとは思うが、なにか期待感のようなものが籠もっているような……。
「ちょ、朝食か?」
「ん、あさご
「あさ
「ふゎすとふーど?」
おっと、英語はミミルは理解できないことを忘れていた。
それにしても器用な発音をしてくれる。こちらが真似したくてもできそうにない。
「海を渡ったところにある国の言葉でね、ファストが早い、フードが食べ物っていう意味なんだ」
「ふぁすと、ふーど……」
いつものように復唱して覚えようとするミミル。
英語も同時に教える方がいいのだろうか……ミミルならなんとなく覚えてしまいそうな気がするが、まだ判断に悩むところだ。
「最初の朝に食べた、薄く丸く焼いた料理……覚えてるか?」
「ん、甘く、美味しい」
「海の向こうにある国の言葉で、ホットケーキというんだ。温かい、ケーキだな」
「ほっと、あ
ケーキは何度も食べているし、こっちの言葉として教えているから英語だけどわかっているようだ。それにしても「た」が一つ多い。
「あたたかい、だよ」
「あ・た・た・かい……あ
どこかの拳法家のようになっているが、
まあ、同じ音が続くのはエルムヘイム共通言語にない発音だから仕方がないのかも知れないが……余計に難しくしているような気がする。
「あとで練習しようか」
「……ん、れんしゅうする」
練習する際に「
早口言葉なんかも教えるといいかも知れないな。
「それで、食事なんだが……どうする?」
「……まかせる」
まあ、ミミルにすれば他に選択肢がないからな。予想した通りの返事だ。
神社を出て軽く一礼し、そこから北へ向かって数分。
全世界へ展開するハンバーガーチェーンへと到着した。先日、配達したのはまた別の店だ。調べてみると周辺に四軒もある。
世界中のどこに行っても同じメニューがあるというのは客側の立場で「安心」に繋がる。だから外国人観光客も多いこの街にも店が多いのだろう。
レジから少し離れたところでミミルにメニューを見せて、選ばせる。
「はっぴーせっと、なに?」
「英語という言語なんだけど、ハッピーは幸せ、セットはひと揃えを意味する言葉だよ。おもちゃがついてくる」
「……おもちゃ」
女の子用の玩具セットを指さして説明すると、何やら真剣な顔をしてその玩具を眺め、うんうんと唸り始めた。
普段から食べる量を考えると全然足りないだろうし、年齢的にもミミルおもちゃが欲しいと思うなんてことはないと思うのだが、どうしたんだろう?
【あとがき】
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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