第179話
ミミルは野営に必要なテントやテーブル等を広げながら説明を続けてくれた。もちろん、俺はテントの設営をしながら話を聞いた。
要約すると、自分がいる世界のどこかに倉庫を作り、その倉庫に空間魔法を使ってアクセスするというのが空間収納魔法だということ。
ダンジョン内へと移動して接続が切れても、地上に戻って倉庫に再度接続すれば、その中身を取り出すことができる。
倉庫の場所は一つとは限らないので、例えば冷蔵庫や冷凍庫、氷河の中の空洞や富士山麓にある風穴のような場所にすることもできる。
買い物をした荷物を直接、自宅の冷蔵庫に入れてしまうことだってできるわけだ。
但し、あくまでも空間魔法の延長なので目で見える場所に倉庫を設定する必要がある。氷河の中の空洞にしたければ、実際にその氷河の中の空洞に行かないといけないわけだ。
だから現実的なのは貸倉庫や自宅の中――なんてところが精一杯だ。
〈冷蔵庫と冷凍庫、自宅の納戸のような場所を倉庫として設定しておけば、買い物が楽になるじゃないか〉
〈買い物をしている間もその倉庫への経路を維持するために魔力を使う。
しょーへいの技能カードの色は
近くの市場に食材の仕入れに行く時間ならば充分だが、ミミルとゆっくり買い物に出掛けるときには足りない感じか。
まぁ、独りで買い物に出るときくらいなら使えるものってことだな。
〈ただ、先ほど説明したとおり、空間魔法Ⅰでは手の届かないところに手を伸ばすことができる程度のものだ。まずは、練習して空間魔法Ⅲにするしかない〉
〈空間魔法Ⅳは何ができるんだい?〉
〈空間魔法Ⅳは目で見える範囲で瞬時に移動できるようになる。空間魔法Ⅴとなれば、繋いだ場所に瞬時に移動できるようになる〉
なるほど……空間魔法Ⅴはフロアの入口に戻れるように設定しておけば、戻りたいときに戻ることができる――とても便利だ。
そうこうしている間にテントの設営が終わり、食事の用意を始める。
まずは、大量に手に入った紫色のブロッコリー
カリフラワー
紫色はアントシアニンなのか、ブロッコリー
カリフラワー
いつものようにニンニクと鷹の爪を入れたオリーブオイルを弱火に掛ける。ニンニクに色づいたらアンチョビを数切れ入れて潰し、茹でたブロッコリー擬きとカリフラワー擬きを入れて塩を振ってサッと和え、皿に盛り付ける。
『美味い!』
いつものように頬袋でもあるのかと思うほど膨らませて食べるミミルから念話が飛んでくる。
その食べる姿を微笑ましく見つめながら、俺も二つ、三つと口へ運ぶ。
ニンニクとアンチョビのソースをブロッコリー
何度食っても美味い。
ミミルは相当気に入ってくれたようで、パクパクと口へと運んでいった。
二皿目は、市場で買い込んでおいた魚――舌平目を使った料理。
舌平目には塩胡椒して小麦粉を
塩で茹でたほうれん草を皿に敷き、そこに火が通った舌平目を盛り付ける。
次に、フライパンに残った汁に無塩バターを加えてトロミが出たらパルミジャーノ・レッジャーノを溶かして舌平目の上に塗りつける。
最後にカセットボンベにトーチを付けて表面を炙って舌平目のフィレンツェ風の出来上がりだ。
『とても繊細だが、味が濃くて美味い』
〈チーズの旨味が濃いからな……〉
身を解してソースに絡めてから口に運ぶ。
ふわりと柔らかい舌平目の身に、とろみのあるソースが絡んで美味い。
ミミルは炙ったバケットと共に食べるのが気に入ったようだ。
また頬を膨らませ、口の中をいっぱいにして味わっている。おたふく風邪でもそこまでは膨らまないだろうと呆れてしまうが、料理を作る側としてはとびきり可愛い女の子が美味しそうに食べてくれるのだから嬉しくて仕方がない。
実年齢は……無粋なので、食事の時は忘れることにしよう。
三品目はガッツリとキュリクスのモモ肉を焼いた。
アウトドアショップで買い付けていた炭を出し、オーブングリルでじっくりと焼き上げたものだ。
ナイフで薄くスライスして盛り付けると、岩塩と黒胡椒をガリガリと削り掛け、オリーブオイルを軽く振りかけてからルッコラやスライスしたパルミジャーノ・レッジャーノを載せて出来上がりだ。
名付けるなら「炙りキュリクスのカルパッチョ」だな。
『先日のワインとかいう酒が飲みたくなるな』
〈この料理との相性はいいが……今日は酒は無しだ〉
〈それは残念だ……〉
残念だが、料理用の赤ワインは二本しか持ち込んでいないんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます