第176話
木の上にいる丸い魔物……ミミルの話ではラウンは黒い鳥と聞いていたのだが、鳥がここまでまん丸いフォルムをしているだろうか。
再度音波検知を試すと、やはり梢に近い枝に止まっている黒くて丸いものが音像に浮かび上がる。
魔力視を使って確認すると、手前に伸びた枝葉の向こう側に魔物の丸いフォルムが浮かび上がる。
幸いにも俺たちの背後に第二層の入り口があるので、向かい風しか吹いてこない。少なくとも匂いで気づかれることはないだろう。
〈ミミル、木の上に丸い影がある〉
〈――ん?〉
小声で大木の枝に止まる丸い形をした魔物の存在を教えると、ミミルも慌てて木の上へと視線を向ける。
〈梢の近く、奥に伸びる枝の上に丸いのが見えないか?〉
〈ああ、しょーへいは運がいいな。あれがラウンだ〉
〈あんなに丸い鳥は初めて見たんだが、あれで飛べるのか?〉
〈ヤツは魔法が使えるからな〉
〈な、なるほど……〉
ラウンは黒い鳥だとしか教わっていなかったが、空を飛べそうにない体型をしていても問題ないということなんだな。
地球にも物理的に空を飛べるはずがないのに飛んでいる昆虫がいるという話は聞いたことがある。実際にミミルも空を飛べるのだし、魔法を使えば物理的に空を飛べない形をした昆虫でも空を飛べるというわけだ。
そういえば、将来的には俺も飛べるようにならなきゃいけないらしいが……。
さて、少し早めにこの
とにかくラウンというあの丸っこい鳥を倒して、空間収納ができるようになりたい。
音を立てないように歩いてきたが、俺は一度立ち止まり、両腕を組んで巨木の梢の辺りを見て考える。
巨木といっても高さ三十メートルもあるということはない。精々十五メートルといったところだ。
エアブレードやエアエッジ、短剣の先から飛ぶヴィヴラに似た斬撃の射程距離内ではあるのだが、
かといって、先に邪魔な枝を切り落としたりしたらラウンに気づかれて逃げられてしまうだろう。
〈ラウンは攻撃でも魔法を使うのかい?〉
〈それはない。一瞬で移動したり、消えてしまうだけだ〉
空間収納の技能――スキルを与えるというくらいだから、時空を自由に操る存在ということなのだろう。
攻撃を察知すれば瞬間移動することもできるし、ダンジョン内のどこかに転移して逃げてしまうということも可能なのかも知れない。
そうなると、最初の一撃でかなりのダメージを与える必要があるわけなんだが……。
三十メートルほど離れた場所からラウンの影を二人で見つめる。
俺が攻撃に使える魔法はエアエッジかエアブレード。
手前や周囲に枝があって、木の葉もあるのでエアブレードやヴィヴラ
とはいえ、
〈難しいな……〉
〈しょーへいは未だ魔法の遠隔発動ができないから厳しいかも知れんな〉
確かにミミルの雷撃のように離れたところで魔法を発動させることができれば俺にも勝機があるかも知れないが、普通の攻撃魔法も未だ覚えていない俺には厳しい話だ。
気がつけば二人して腕を組んで
ラウンはレアな魔物ということもあって、ミミルも慎重に対策を考えているようだ。
〈しょーへい、弱い雷ならラウンが麻痺すると思うか?〉
〈ある程度の電圧があれば或いは……ってところだな。だけど、あの場所だと木の方に電気が流れてしまうかも知れないぞ〉
〈そうなのか……〉
雷の性質上、電気が流れやすい――抵抗の低い場所に落雷する。
雷が高いところに落ちるのは空気の限界抵抗値が高く、樹木や鉄塔などは抵抗値が低いからだ。
当然、ラウンの身体がもつ抵抗値と、
〈とは言え、ここでずっと待っていても埒が開かぬだろう。また次の休憩地にもラウンがいる可能性もあるし、雷を試してみることにしよう〉
久々に雷魔法を使えることが嬉しいのか、ミミルはニヤリと口角を上げる。
確かに、ミミルの言うとおりで、このまま膠着状態を維持したところで時間の無駄というものだ。
それよりも、ミミルの雷魔法で少しでもラウンを倒すチャンスがあるのならそれに賭ける方が時間も無駄にならないだろう。
〈そうだな、じゃあ頼む〉
〈私に任せなさい〉
ミミルは音を立てないように十メートルほど歩き、そこで右手を差し出すようにしてイメージを練り上げる。
〈――ランムッサ〉
ほんの僅かな時間でイメージを仕上げたのか、ミミルの口から小さな声が
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