第159話
大量のパセリを手に入れ、俺としてはとても嬉しいのだが、ミミルは何か
ミミルはこのあたりの野菜などには興味がないようなので、その興味の無いものを持たされることに不満を感じているのだろう。
イタリアンパセリに似た方はサルサヴェルデやパスタの飾りに使えるし、カーリーパセリの方はエスカルゴバターにすれば美味しく食べられる。
一度作ってみれば、ミミルも興味を持ってくれるかも知れない。
だが、ダンジョン内では電気が使えないからフードプロセッサが使えない。
最近では手動式のチョッパーがあるらしいから、今度買ってくるか……。
そんなことを考えながら、リンキュマンやキュマンを手際よく倒して進む。
リンキュマンからは、他にもディルやチャービル、キャラウェイ等の特徴を持つ葉が手に入った。葉の形は違うけれど、香りなどはそっくりなので同じように使えるはずだ。
以前も感じたことだが、ダンジョン内は小川や川に限らず、目に見えない境界線のようなもので明らかに魔物のテリトリーが区切られている。
このあたりはセリ科の植物系の魔物が「配置されているところ」ということなのだろう。
そして、その先にあるのがまた違う魔物のテリトリー。
〈今度はまた動物系なのかな?〉
〈この先に植物系の魔物がいる。ここはルーヨの領域だ〉
エルムヘイム共通言語の知識で日本語に訳すとするなら、「赤鹿」なのだが、恐らく鹿に似た魔物ということなのだろう。
鹿と言えば、大仏殿の周りにいる鹿を思い出すが、奴らも強引なところがある。鹿せんべいを持っていればすぐに
この第二層にいるルーヨは人間の手で角を切られていないから、危険度は更に高いことだろう。
〈やはり角で攻撃してくるんだろう?〉
〈そうだな――他に後ろ脚での蹴りがあるが、角での攻撃が厄介だ〉
セリ科植物系魔物とルーヨのテリトリーの間にある安全地帯らしき場所でミミルと話す。
音波探知をしてもルーヨらしき魔物は引っかからないし、魔力視を使っても植物系魔物が視界に入ることがない。
少し休憩をとるにはいいタイミングだ。
〈ここらで休憩するかい?〉
〈ルーヨの領域を超えたところでまた野営する予定だからな。中間地点という意味では、ここらで休憩するのもよいだろう〉
〈じゃあ、軽く食べられるものでも作るとするか……〉
このひと言を聞いて、ミミルの顔がぱっと明るくなる。
セリ科植物系魔物のテリトリーを抜けるまでの時間は約四時間。
朝食を摂ってからの時間を入れれば約五時間は経っている。
ミミルが腹を減らすのも不思議ではない。
とはいえ、ここで本格的な料理をする気はない。
本格的に料理することで、日が沈むまでにルーヨがいるテリトリーの先にある安全地帯までたどり着けないということになるのは避けたいからね。
〈ミミル、先ずは食卓を出してくれるかい。俺が食卓を組み立てたら、そこに買い込んできた食材を並べて欲しいんだ〉
〈わかった。さっき手に入れたものはどうする?〉
ミミルは俺の返事を待つことなく、折りたたみ式の簡易テーブルを空間収納から取り出す。
〈これを組み立てたら見せてくれるかい?〉
〈問題ない〉
受け取った簡易テーブルを組み立てると、ミミルが食材を並べていく。
バケット、ブール、食パン、数種類のチーズ、無塩バター、生クリーム、牛乳などの乳製品、トマト、ほうれん草、ズッキーニ、ナス、玉ねぎ、ニンジン等の野菜類、市場で買って配達してもらった魚介類、生ハムやベーコン等の肉類に鶏卵……といろいろ持ち込んだものだ。
それにホルンラビ、ブルンヘスタ、キュリクスの肉。
最後に取り出されたのは、先ほど手に入れてきた植物系魔物のドロップ品だ。
改めてそれらを確認していく。
特筆すべきはキュメンだろう。
形状はクミンそのものだが、果皮を割ってみると何かを押し固めたようなものが入っているだけ。
だが鼻に近づけて香りを嗅いでみると、やはりクミン特有の香りがする。
〈種の形をしているが、種ではないぞ〉
不思議そうにキュメンの果実を見つめていると、その理由を察したミミルが声をかけてきた。
〈そうなのか?〉
〈ダンジョンの中では魔素の力で微小な生物は生きられない。これは植物も同じだ〉
〈そういえば、そんなことを言ってたな。ということは……〉
種子の部分を指先で潰してみると、粉状になって崩れ去る。
どうやら、粉にした実を押し固めたようなものが詰まっていたようだ。
〈チキュウではなんというのか知らんが、この層で採れるヴェーテという魔物の実はエルムヘイムではブリューにするぞ〉
エルムヘイムで〝ブリュー〟とはパンのようなもののことだ。
つまり、小麦のようなものがあるということなんだろう。
〈ところで、何を作ってくれるのだ?〉
〈そうだなあ……〉
俺は腕を組んで首を小さく傾げ、再度テーブルの上に並んだ食材を眺めて考え込んだ。
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