第53話
肉が出なくて意地になったのか、ミミルは一時間ほどで四〇体ほどのツノウサギを倒していた。
結局それだけ狩ってもツノウサギの肉は一つしかドロップせず、先ほどからミミルのご機嫌が悪い。
ミミルがツノウサギを狩っている間に俺も何匹かツノウサギを倒したり、スライムなども相手にしたがとてもじゃないがそれだけの数を倒せるものじゃない。まばらに生息している魔物を約九〇秒で一匹倒していることになる。
もちろん、俺もぼんやりしているわけじゃない。ツノウサギ以外にもミミルが無視するオカクラゲやスライムなんかを相手にしていた。
そこで気がついたのは、ミミルから受け取った短剣の性能だ。
獲物のツノウサギの首に刃先を滑らせると、高く乾いた音を出してまるで紙でも切るかのように抵抗なく跳ね飛ばしてしまう。刃渡りが四〇センチしかなく、刃先の一〇センチほどが首に当たっただけなのだから不思議で仕方がない。もしかすると、刃先から魔力の刃でも飛ばしているのだろうか。
ミミルに訊いてみたい……。
心のなかではそう思っているのだが、この機嫌の悪さはあれだ……触らぬ神に祟りなしというやつだ。
まぁ、ゲームなどをしていた頃、俺もアイテムが確率通りドロップせずにイライラしたこともあるから気持ちはわからないでもない。
すると、ミミルが明らかになにかに気がついたようにハッとして俺を見た。
どうも念話をつないでいる状態だと、思考がたまに漏れている気がするので怖い。
『さき、いく』
どうやら俺の思考が漏れていたのではないようだ。
当初の目的であった、第二層に向けて出発するということだろう。
俺もなんでこんなに頑張ってツノウサギを狩っているのか不思議になりかけていたところだ。
ミミルはムキになっていたことが恥ずかしいのか、こちらを振り向くこと無く歩いていく。
俺よりも百歳近く年上なんだから、冷静なフリをしたいのはよくわかる。
三〇メートルも歩いたところで俺の音波探知にツノウサギが二羽いることを教えてくる。
「三〇メートル先、ツノウサギが二羽な」
『ん、まかせる』
ミミルは意地になってしまったことを反省しているのか、二羽とも俺に任せてくれるようだ。
一羽ずつ仲良く倒してもいいと思うんだが……。
「はいはいっと……」
少し怠そうに返事をすると、俺は足音を消してツノウサギの方へと向かう。
まだ二〇メートルは離れているが、足音から奴らは俺たちのことを感知したようだ。
一羽のツノウサギが後ろ脚で立ち上がり、俺たちの方を向いて耳をピクピクと動かした。
電磁波を飛ばそうと右手を前に翳すが、やはり距離があると小さく見えるので狙いを定めにくい。レーザーサイトのようなものがあれば……。
そうだ。
レーザーは光。
光は波だ。
ということは、俺の能力で制御できる……はずだよな?
でも、もう残り一〇メートルもない。
視界の奥にはもう一羽のツノウサギがやってきている。
前にいた一羽目のツノウサギが一声鳴いて、そのツノを突き刺そうと飛びかかってくる。
腹のあたりまで飛び上がってこないからいいものの、太ももでも刺さりどころが悪ければすぐに死んでしまうような攻撃だ。
俺はそれをかるく身体を捻って躱すと、その反動で一回転し、飛びかかってきた二羽目を蹴り上げる。
二羽目のツノウサギは凡そウサギとは思えない苦悶の籠もった呻き声を上げ、骨の折れる音と共に五メートルほどの高さまで飛ばされる。
おいおい……二〇キロは軽くあるツノウサギの身体をあの高さまで蹴り上げるとか、いつの間に俺はこんなパワーを身につけたんだ?
でもまぁ、相変わらず直線的な動きで正直助かる……。
蹴った勢いで反転すると、俺に避けられた一羽目が着地して方向転換し、こちらにまた飛びかかってきた。
俺は二本のナイフを腰から抜くと、迫ってくるツノウサギのツノを左手の短剣でかち上げ、直ぐに右手の短剣を首に突き立てた。
最初の攻撃を躱され、ほとんど助走のない状態からツノを突き立てにきても、勢いもスピードもないので倒すのは簡単だ。
二羽目は肋骨が折れ、内臓も破裂したのだろう……落下した場所には琥珀色の魔石が転がっていた。
「ふぅ……」
軽く息を吐いて一羽目に目を向けると、肉がドロップしていた。
『ずるい……』
「いや、ずるいことなんてしてないぞ?」
『ん――』
ミミルとしては大量殺戮してもほとんどドロップしなかったのだから、不満のひとつも言いたいのだろう。
ネトゲとかで欲張ってレアドロップを狙えば狙うほどドロップしないアレだ……「物欲センサー」ってやつ。諦めた時になってドロップしたりするんだよな。
誰かが見ていて意地悪をしているというわけでもないとは思うが、得てして欲しいときほど欲しい物がでないのはどこでも同じってことだ。
少し不満そうな顔をしたミミルだが、ツノウサギの肉を空間収納に仕舞うときにはやはり嬉しそうにしている。実年齢は百歳を超えていても、こういった一つひとつの仕草や表情を見ていると、子どもに見えて仕方がない。
収納を終えると、ミミルは俺の手を取って魔石を握らせた。
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