ミミル視点 第41話(上)
今日もしょーへいに揺すられて目を覚ました。
しょーへいはなにやら音のなる時計を枕元において寝ていて、起きる時間になるとそれが大きな音を鳴らして起こしてくれると言っていたが、私はそれで目を覚ましたことがない。
本当に鳴っているのか?
それにしても、昨日はダンジョンに長くいたのもあって睡眠時間が少々足りていないようだ。
揺すられて目を開いても、なかなか身体が動かない……。
だいたい、ダンジョン攻略は何日も寝泊まりする準備をして入る。ダンジョン内部では日が昇れば目を覚まし、日が沈めば眠るという生活をするのが普通だ。
だが、この世界に来てからは、日の出と共に目を覚まし、日の入りとともに食事を用意して更にダンジョンに入るという生活をしている。起きている時間ばかりが長くなり疲れも溜まるのは当然だ。
まぁ、ダンジョンで魔素を吸収しながら活動していれば、そんなには疲れないし、眠くもならんのだが……。
ふんぬと力を込めて起き上がると、ショーヘイが顔を洗いに行くという。
昨日は風呂に入るために着替える部屋まで行って顔を洗ったのだが、今日はテラスのような場所に連れ出された。銀色をした水槽のようなものがあり、そこでも顔を洗うことができるようだ。
それにしても、この家はとても快適だ。
室温は一定を保っているし、
いまも、金属の棒を上に持ち上げるだけで水が出てくるし、角度を変えればそれがお湯に変わる。棒の動かし方で温度や勢いも簡単に調節できる。これはすごい技術だ。
両手に掬った水はとても透明度が高く、きれいだ。
このまま口に入れて飲んでも大丈夫そうなほどだ。
その水で二回、三回と顔を洗う。
すると、しょーへいが濡れた顔を拭くための布を差し出してくれる。
「わざわざすまんな……」
『どういたしまして』
これがまた驚くほど水を吸うのだ。そして、とても柔らかい。
頬に軽く押し当てるだけで、いま洗顔して濡れた部分の水滴が消えてなくなっていく。
この世界の布は、貴族や王族でももっていないような肌触りの布を庶民でも気軽に入手できるらしい。
だが、武器や防具についてはこのチキュウは非常に貧弱。
まず武器類。
短剣は刃渡りが短くて使えたものではないし、剣や槍、斧などの武器も売っていない。
しょーへいには〝チン〟があるが、この様子だと他の者はどのように戦えばいいのか想像もできないだろう。
次に防具。
革製の装備も売られていたが、あそこまで皮で覆ってしまうと逆に重くて動けん。
私の見立てでは、ダンジョン第一層くらいしか使えそうにない装備ばかりが売られていたという印象だ。
昨日入った店で私が満足したのは靴だけだ。つま先に鉄板を仕込み、充分な厚みのある皮で作られていて、左右で靴のかたちを変えて作られていた。
エルムヘイムでは誂え品の品質だ。
だが、しょーへいはその場で試着して、気に入ったものを買っていった。
つまり、出来合いの品としてごく一般的に販売されている商品だということだ。さすがにこれは驚いた……。
それにしても、このチキュウという世界……。
驚くほど背が高い石造りの建物が当たり前のように並んでいて、玄関には前に立つだけで開く扉、中に入ると動く階段などがある。
道にはガソリンとやらで動くエンジンというもので車輪を動かすジドウシャ、人が足で何やら踏んで動かすジテンシャとやらが走り回っている。
これが馬車よりも速いのだ。
そんなに速く走ると尻がもたないだろうと思っていると、路面はとても細かな石のようなものを敷き詰めて固めてあり、ほとんど凹凸がない。あの道を作る技術があってこそ、あのような乗り物が使えるということなのだろう。
そういえば、ショーヘイに連れられて入った店はどこも照明が商品を
そして昨夜はお湯を注いで三分待つだけで美味しい麺料理がでてきた。
麺に鶏のスープに謎の肉、小さなエビなどの旨みが染み込んで、これがまた恐ろしく美味い。
あれはもう、食の世界における大革命だ。
私はエルムヘイムがこの世で最も魔法が発達し、便利なところだと思っていたのだが、昨日はこの世界の方が遥かに進んだ文明を持っていることを思い知らされた。
おっと、しょーへいが朝食を運んできた。
『ぱん、やさい、ぶたくんせい、たまご』
これは一度焼き上げたパンを薄く切って、
『ことば、おしえる』
「あ、ああ――よろしく頼む」
そういえば、「これ」と「あれ」、「なに」の三つでいろんな物の名を教えてもらった。
今日は何を教えてくれるというのだろう……。
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