ミミル視点 第40話(下)
カップメンを食べたあと、しょーへいは風呂に入った。
私とは逆で、しょーへいは風呂に入っている時間は短い。
髪が短いのもあって洗ったり乾かしたりするのに時間がかからないのかも知れない。
そして戻るやいなや、ポケットから小さな板を取り出すと、私にも見えるように密着して横に座った。ホットケーキを注文したときとは違い、四角い絵や文字がいくつも並んでいる。
『これ、スマートフォン。さわる、でんわ、けいさん、きろく、しらべる……いろいろ、できる』
しょーへいが実際に画面の中にある絵に触れると、板に表示されるものが変わった。
一五個の丸いものが表示されて、ふれると文字が現れた。
『デンタク……けいさん。たす、ひく、かける、わる、できる』
しょーへいが実際に指で触ると、文字が現れる。
「なんと! これがチキュウの数字なのか」
思わす声をだしてしまった。
そういえば、今日はいろんな店に連れて行かれたが、あちこちでこの文字が書かれていた。あれは金額だったのだな。ようやく納得したぞ。他の文字は、商品の名前なのだろうな。
『デンワ、はなれる、あいて、はなす、つかう』
しょーへいは違う絵を触って、一三個の数字が書かれたものを表示させた、一つは緑色の丸い絵だ。
『チズ、みる……』
地図……とても詳細な地図だ。しかも、中央に表示されているのがこの家なのか。
こんなに詳細な地図をどうやって作るというのだ。
『ゲンシ、ブンシ……べんきょう』
手のひらの大きさの板の中に、さまざまな機能が閉じ込められている。
そのことを知って言葉を失っていると、しょーへいが今度は板の中に小人を召喚した。
板の中の小人が何かを話しているが、私には全く理解できない……。
いや、この小さな板そのものが理解できないのだ。
『これ、なに?』
『スマートフォン』
私が問うても、しょーへいは眉を八の字にして「スマートフォン」としか応えてくれない。
この小さな板のことを理解するのは一旦諦めよう。いまは「こんなもの」として受け入れる。それしかない。
割り切ってしまうと気は楽だった。
何やらしょーへいが召喚した男が小さな板の中で説明していた内容で、ゲンシとブンシは理解できた。
物を徹底的に細かく砕き、これ以上小さくできないところまでいくと原子というものになる。それが結合したものが分子。
水素という原子と酸素という原子が結合してできたのが水の分子。
これは召喚された小人が例として説明していた。
その水分子に特定のシュウハスウのデンジハを当てれば、水分子が発熱するというのがしょーへいの〝チン〟だということだ。
そして、実際に厨房に連れて行かれてデンシレンジを見せられた。
コップの中の水が沸騰するのを実際に見て、〝チン〟のことを理解できた……はずだ。
いろいろと納得できないところもあるが、言葉を覚えたらいろいろと学んで理解すればいい。
◇◆◇
ひととおり、説明を聞いてある程度理解できたことをしょーへいに伝えると、今度はダンジョンで死んだらどうなるのかと質問された。
もちろん、しょーへいを死なせるなどありえないことだ。
美味しいものが食べられなくなるのは困る……。
ダンジョン外の生物がダンジョン内で死亡すると、時間をかけて霧散して魔素に変換される。まるで、消化されるようにゆっくりと……。
ダンジョンの種を入手するには、ダンジョン外の生物の死体を一定数吸収させればいい。
私がエルムヘイムに戻るために必要なダンジョン外生物の死体……いずれはそれを大量に入手しなければならないが、それはしょーへいに管理者の権限を譲渡できる目処がたってからだ。
『ズカン、だす』
ふかふかの椅子に寝転がり、しょーへいが言う。
すぐ隣に座ってズカンを出すと、しょーへいはズカンを開いて見せてくれた。
ダンジョン第一層の入口部屋だと薄暗かったのでよく見えなかったのだが、とても挿絵が美しく写実的だ。
「これすごい!!」
思わず叫んでしまった。
「これはすごいな、すごい写実的で美しい……これは何だ?」
すぐに念話でしょーへいに伝え直す。
『これ、チキュウ。いま、ここ』
しょーへいが指さしたのはダンジョンで間違って指で触れてしまった場所……ここで間違いない。
「この絵は何だ?」
『うみ、たいりく、りくち、さんわり、うみ、ななわり』
それはダンジョンの中で聞いた。わかっている。
私が知りたいのは――。
「この絵は誰かが想像して描いたものなのか?」
『うちゅう、シャシン、とる』
次に見せられたのは、巨大な塔のようなものが空を飛んでいる絵。
『これ、うちゅう、いく。シャシン、カメラ、とる――』
しょーへいはまた――スマートフォンを取り出して、こちらに向けた。
何やら乾いた音がして、しょーへいがスマートフォンを私に見せる。
そこには少し驚いたような顔をした私がいた……。
「何これ!」
気がつけばしょーへいの手からスマートフォンを奪っていた。
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