第25話 ミミル視点 第25話(下)
しょーへいに連れられて入った店でトンカツという料理を思う存分堪能したが、私はもう腹いっぱいだ。このゆったりした服のおかげで、ぽっこりと出たお腹もそんなに気にせず外を歩くことができるのはありがたい。
まさかここまでしょーへいは気を配ってこの服を選んでくれたというのだろうか?
もし、そうだとしたらなぜこの男は独身なのだろう……。この世界の女どもは見る目がないな。
『ここ、ふく、かう』
「ここが服屋か、どんな服があるか楽しみだな」
この店の扉もジドウドアだ。ここに来るまでの間にも何軒かジドウドアがついた店があったので、この世界では相当普及している魔道具なのだろう。
是非、エルムヘイムに戻るまでにその構造や仕組みを理解しておきたい。
店の中に入ると、この世界の男や女が着ているような服が多数並んでいる。
客の世話をするために雇われている女が何人かいるようだが、私より背が高い。いや、エルムヘイム人の平均的な身長より高い者ばかりだ。
そ、それに――乳や尻が大きい……。
いや、私もダンジョンに入るのをやめれば胸も成長し、お尻も大きく……なるはずだ。そうなれば負けたりはしない。負けたりはしないのだがなんだか悔しい……。なんだこの敗北感にも似た悔しさは……。
胸の大きな女がゆさゆさと脂肪の塊を上下させながら近づいてきて、しょーへいと話をしている。何の話をしているんだ?
「
くそう……何を言ってるかわからん。
独り悔しがっていると、しょーへいが私の手を引いてこのゆさゆさ女の後ろについて歩いていく。
しょーへいの目線は尻ばかりみているのかと思ったが、そうではないようだ。なぜだろう、少しホッとした自分がいる。
恐らく、私の身長や体型に合う服の売り場へとやってきたのだろう。私自身が見ても丁度良さそうな大きさのものしか並んでいない。
ただ、私にはこの世界――いや、服のことがよくわからない。ほとんどをダンジョンに潜って暮らすという生活をしていたせいだ。
『ふく、えらぶ?』
「いや……まかせる」
年中ローブを着ている私にこんなにもたくさん種類がある中から一つを選べといわれても無理だ。ローブを出してきて選べと言われれば選ぶ自信はあるが、それ以外の服が混ざればもうわからない。
しょーへいがゆさゆさ女と話をして何着か服を選ぶ。そして、それを実際に試着しろと言われた。大きさが合わないだとか、似合わないようであれば、不快な思いをするのは私だからな……試着は大切だ。
「
妖怪ゆさゆさが何かを言っているが、もういい。着せかえ人形でもなんでもやるから、さっさと決めてくれ――。
◇◆◇
たくさん服を買ってくれたのはとても嬉しい。自分で似合っていると言うのも変な話だと思うが、エルムヘイムでは見たこともないような大きさの鏡の前に立ち、思わずにやけ顔が止まらなくなるくらい気に入った服もある。
本当に、しょーへいには感謝の言葉しかない。
だが、しょーへいも服が必要だ。特にダンジョンの中で魔物から身を守ることができるような服をこいつは持っていない。
「しょーへいもダンジョン用の服を買うべきだと思うんだが?」
この一言で、しょーへいもようやく気がついたようだ。
服屋を出て、その近くにある店の中へと入った。
見るからに戦闘用の服や道具であることがわかる服ばかりだ。だが、濃い緑色や茶色、黒で斑に塗った服が多いのはなぜだろう。
とにかく、この店ではしょーへいがダンジョンで怪我をしないよう、防御に優れたものを選ぶことにしよう。
まずは服なのだが……防刃性に優れた生地を使ったものがあるようだが、残念ながら付与ができない。やはりダンジョン産の素材でなければ良いものは手に入らないということなのだろうな。
刃物の類も刃渡りが短すぎる……これではスライムの核に届かない。
透明な盾などもあるようだが、突進してくる魔物を受け止められるほどの強度と重さが足りないな。
となるとこの店で買うとすれば……。
「この靴はいい。こちらのものもいいものだ」
靴を見ながら歩く。しょーへいはなぜこんな靴ばかりを選ぶのか不思議そうだな。
答えは簡単だ。
「ダンジョンの浅い層には噛み付いてくる魔物が多い。噛まれるような高さまで保護しておくべきだろう?」
『なるほど。これ、どう?』
形状から見て脛当てや肘当てなのだろうが、邪魔なだけだ。
結局買ったのは靴だけ。服や武器の類は私がダンジョンで採ってきた素材で作ることにしよう。すこし――かなり贅沢なものになると思うが仕方がない。
しょーへいに怪我してほしくないからな。
あとは――。
「私の空間収納に荷物を入れてやる。そこに出せ」
『ありがとう』
「こどもじゃない! 頭を撫でるな!」
この男はいったい何度注意すればわかるのだ――。
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