第26話
殆どの荷物がミミルの空間収納に入ったので、とても身軽になった。手元に残っているのはミミルのために買った服が数着入った袋だけだ。
空間収納は本当に便利なスキル。
ラノベを読んでいても、空間収納がなかったら狩場の往復ばかりで話が進みそうにない。ミミルさまさまだ。
その後は、大通りを渡って大きな書店に寄って図鑑や絵本を数冊購入した。
エスカレータを見てミミルは唖然としていたが、一分ほどで我に返ったようだ。
すぐに「なに?」と指して尋ねられた。
次に家電量販店に入るのだが最初にミミルに言っておく。
「いまから入る店の中にあるものは、家に帰ってから説明する。いいな?」
コクリとミミルは頷いたが、たぶんそのことをすぐに後悔しただろう。
店に入るなり、ミミルの興奮は最高レベルに達した。
自動ドアやエスカレーターはあるし、冷たい風が吹き出してくるエアコン、床を走り回って掃除してくれるロボット、スティック型でも充分な吸引力がある掃除機、アイロンや女性用の美容家電まで……目に入るものすべてが彼女にとってはオーバーテクノロジーな機器ばかりだ。
その都度、異世界語で何かをしゃべっていたが、誰にも通じない。言葉の意味が少しでもわかる方が声を掛けやすく、まったく通じなければ人は狼狽えて避けてくれる。
唯一の例外は隣県のおばちゃんたちだ。どこかから飴ちゃんを取り出して餌付けしようとする。近いうちにあれは恐ろしい生き物だと教えておくことにしよう。
ミミルはテレビ売り場に並ぶ薄型のテレビをあちこちから覗き込んだ。
同じチャンネルを同時に映し出しているので、画質などを見比べるのには便利なのだが、二〇台くらい並んでいる状態では、いくら賢いミミルでもそれがどういうことかを理解できる範囲を越えていたようだ。
『ふたご、めずらしい。このひと、なんにん?』
一卵性の多胎児として生まれたのだと思ったのだろうか。
これがニュース番組だから良かったものの、バラエティ番組だったらもうパニックだろうな。
「帰ったら説明するから、いまは辛抱してくれ……」
少し興奮気味に尋ねていたミミルも最初に言われたことを思い出したのか、少し顔を赤くして俯いた。
こうなることは予想し、店に入る前に「家に帰ってから説明する」と告げておいてよかった。
結局、テレビ売り場は眺めるだけに止め、パソコン用の大型ディスプレイと動画などを見るためのストリーミングデバイスを選ぶことにした。
これらの機器が家にあればミミルもネットで配信されているアニメ等を見て時間を潰せるだろうし、日本語を覚えることもできるだろう。
最終的に五〇インチのパソコン用のディスプレイを買うことにした。高画質なのにチューナーが入っていないので安い。
もしチューナーが欲しくなったら、ブルーレイレコーダーを買ってつければいいし、これで充分だ。
明後日には配達される。
家電量販店を出ると、他に買わなければいけないものを思い出してみる。
ミミルは異世界からやってくるときに下着を持っていたので新たに買う必要はないだろう。
歯ブラシは昨日、買って渡してある。
あとは、これまで街を歩いてミミルの肌に何か変化が起きているかどうかだ。
少しでも赤くなっているようなら、日焼け止めクリームやサングラスなどを買うことも考えないといけない。
「ミミル、日焼けは大丈夫か?」
顔や露出している腕などを見て確認するが、特に異常は見られない。
日光があたる場所にいた時間は僅かなので、この程度なら問題はないのかも知れない。
『ん、だいじょうぶ』
ミミルもこの程度なら大丈夫と判断したようだ。
だが、帰り道も残っている。今後のことも考えると、日焼け止めクリームとサングラスやカラコンくらいは買っておいてもいいかも知れない。
外国人観光客が増えて、このあたりにもたくさんのドラッグストアができているし、眼鏡とコンタクトレンズの店も多い。
急遽、帰り道に寄ってみることにした。
ドラッグストアは特に特筆すべきこともなかったが、やはり女性なのでミミルも化粧品には興味を持ったようだ。
見た目の年齢や肌の艶感などを考えると必要なさそうな気もするが、肌のケアをするためのものはあった方がいいのかも知れない。
『これ、なに?』
ミミルは化粧水を手にとって尋ねる。
「肌に水分を与えるための専用の水……といったところかな。興味あるのか?」
『ある』
そう言われると、しっかりと肌ケアできるようにしてやりたいところだ。
スマホを取り出して「肌のケア」で検索し、検索結果からスキンケアの基礎について書かれているサイトへ飛ぶ。
化粧品のクレンジング、化粧水、美容液、乳液・クリームの四ステップのようだ。
ミミルは化粧をしていないので、化粧水、美容液、乳液・クリームを買っておいた――。
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