ミミル視点 第22話(下)
呼び鈴に似たもの――しょーへいがそう言っていた小さな箱から音が聞こえると、そこに料理を運んできたのとは違う者が入っていた。
『すこし、まつ』
しょーへいはそう言って部屋を出ていく。
この箱のことをしょーへいは呼び鈴に似たモノだと言っていたし、その前に音が鳴ったときは料理が届いた――ということは、何かを届けにきたと言うことなのだろう。
何かが届いたなら、しょーへいはそれを受け取りに行ったということだ。
それにしてもこの部屋は殺風景だ。
寝台と椅子、そして椅子の前にある卓。
部屋の片隅に何やら丸いものが置いてあるが、これはいったいなんだ?
まあいい、触るとしょーへいに怒られる気がする……。
だが、ひとたび目に入ってしまったものはしようがない。私の身体に眠る「知」の加護が疼きだし、その丸いものの前に屈み込んで観察してしまう。
――ほら、そこの中央にあるところだけ色が違う。なぜ違うのだ?
こんな感じで心の奥底から何かが私に問いかけてくるような気がする。私はそれまで気がついていなかったのだが――なるほど、確かに中央部分だけ色が違う。だが、他にも突起している部分があるので、押すところは他にもあるのだ。しかし、この中央の部分だけが何倍も大きい。
――ここを押せ。
見つめていると、そう言っているように見えてくる。
「これはいったい……」
何なのだろう。
ええい、何なのかわからん。だが、触ってしょーへいに怒られたくない。
仕方がないなっ――ッ!
どうしたことか、立ち上がろうとしたとき、後にバランスを崩してしまった。
そのまま尻もちをつきそうになるが、なんとか堪らえ、バランスを取り直すために両手を前に突き出し……。
「――ハッ!」
息を吐いて、気合で重心を前に移動して持ちこたえる――持ちこたえるのだが、勢い余って今度は前へ。
この瞬間だけ、なぜか目に見えるものがスローモーションに変わった。
伸ばした手が……手がぁっ!
う、運悪く……本当に運悪く、丸い物体の中央部分に指先をついてしまった。
すると、何やら覚醒したかのように丸い物体が光り、甲高い音を出す。
何だこの音は!?
なにやら警告するような音だ。
驚いた私は四つん這いのまま慌てて後ずさる。
そして、丸い物体が大きな音――轟音を立てて動き出した。
「――くっ、来るな。あっちへ行け!」
この丸い物体は私が威嚇したところで全く聞いてない。それどころか、まだ私の方へと向かってくる。
くそう――なんなのだこいつは!?
なぜ、私がいる方向へと追いかけてくるのだ。仕方がない――退避、椅子の上に退避だっ!
退避した椅子の上から丸い物体の動きを見ていると、何かの穂先のようなものがついていて、それで床のゴミをかき集めている。
「ま、まさか――」
掃除をする魔道具……なのか?
椅子からおりて、丸い物体の後ろをついて歩く。
ゴミがどこに消えているのかはわからんが、掃除をしていることは確かなようだ。しかも、壁沿いの取りにくいゴミやホコリも掻き出している。とても優秀だ。
――ん?
また私の方に向かってきたぞ。
大事な魔道具を壊すわけにもいかんし……既に掃除を終えた場所に逃げれば大丈夫だろう。
丸い物体が掃除をしていた部屋の隅まで逃げ、膝を抱えて座る。
やはりここには来ないようだな。
うう……甘かった。
一度掃除を済ませた場所なのにまたやってきたのだ。
途中で引き返すだろうと思っていたが、そのまままっすぐ私に向かってくる。
だが、私は部屋の隅にいるので逃げ場がない……。
「こ、こらっ! 魔道具のくせに小突くんじゃないっ!」
魔道具は高価なものだ。
それにここで私が魔法をぶっ放したら家が壊れてしまうことだろう……。
幸いにも小突くといっても、まったく痛みは感じないし、我慢するしかない。
魔道具はしばらく私を小突いたあと、部屋の他の場所を掃除し、元いた場所に戻っていった。
最後にまた変な音を立てていたが、もしや断末魔の叫び――なのか?
ダンジョンの中だと、ツノウサギの攻撃を受けても私はびくともしない、逆に、ツノウサギの方が何度も体当りして体力を失い、倒れることがあるくらいだ。
もしかするとこの魔道具も私を小突いた時に、逆にダメージを受けてしまったりしているのだろうか?
もしかして、私があの魔道具を壊した?
「――まさか、な」
心配になってしょーへいがいる一階に下りることにした。
少し待てと言っていたのに、全然戻ってこないしょーへいが悪いのだ。
一階に下りると、何やら厨房を見て満足そうな顔をしているしょーへいを見つけた。
隣まで行って、袖をクイと引いてみる。
『さみしい?』
「私は立派な大人だ。おまえがいないくらいで寂しいとか考えたこともないわ」
ただ、変な魔道具に追いかけられて少し怖かっただけだ。
壊しちゃいけないと思うから余計にだぞ?
でも、こんな魔道具があるなら、先に教えておけ。
身体強化を解除し、しょーへいの胸元を軽く殴る。
また何やら慈愛に満ちた視線で見られたぞ。
『わたし、ひとり、かいもの。るす、たのむ』
「ふむ、わかった」
『ふく、かう、もどる。きがえる、そと、でる』
なんだと!?
「外に連れて行ってもらえるのか! 楽しみだ!」
この家の外に何があるのか気になっていたところだ――。
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