83 絶対に私から離れないでね
昼食後に庭園に戻り、今度は庭側から庭園を観賞する。鯉が泳ぐ池にそって歩き、その奥にある
百花苑で様々な木々や花々を見て散策を楽しんだ後、そのまま天龍寺の境内を出て竹林の道に歩いていく。青々とした竹林を見上げ、写真を撮りながら進んでいると、急にミシェルに手首を掴まれた。驚きと共にミシェルを見上げると、怖い顔で後方を睨み付けていた。
「どうした?」
「こっちを見てる奴がいる。同種だ」
ここも名所の一つなので多くの観光客がいる。その中で景色ではなく自分達を見つめている視線にミシェルは気付いた。亘も周囲を見回したが、誰が同種なのかは分からなかった。
「亘、絶対に私から離れないでね」
ミシェルに手を引かれて亘は先に進んだ。周りの人達に注意しながら竹林を抜けて、嵐山公園を
「大丈夫、人がいる前では襲われないわよ」
「そうか。なら、もう手を繋いでなくてもいいだろ!」
冷静になってみると、今まで人前でミシェルと手を繋いで歩いていた事に、急に恥ずかしくなって亘は汗ばんだ手を振りほどく。
「あん、手ぇ離しちゃだ~め」
「離れなきゃいんだろ!」
ミシェルは少し残念そうにしながら歩き、渡月橋を渡る。人混みに互いの姿を見失わないように注意しながら渡りきり、
現在13時28分。
待ち合わせの時間に所定の場所に辿り着いた。ミシェルは振り返り、後ろから付けていた人影を確認すると、その人物は堂々と石段を上がって来た。
彼の顔には見覚えがあり、昨日亘を連れ去ろうとした男性だった。ゆっくり近付いてくる彼に警戒しながら、亘に視線を向けると、なんと亘の姿がなかったのだった。
ミシェルは慌てて亘を探した。すると、亘は本堂の奥へ歩きてゆき、森の中へどんどん進んで行ってしまう。あれほど自分から離れるなと注意していたのに、それを失念して単独行動する亘をミシェルは急いで追いかけた。
亘を捕まえて顔を覗き込むと、意識が何処かに持っていかれてるのか
「痛ったぁ!」
痛覚により亘は意識を取り戻した。
「ミシェル?何で血吸ってんだ?」
「吸ってないわ。牙を突き立てただけ」
状況が呑み込めず茫然とする亘。ミシェルは亘が鈴の音で操られていた事を説明する。
「そんな催眠術みたいなことができるのか?」
「みたいね。亘はかかり易いのかしら。
さて、そろそろ出てきたら?十分人目から離せたでしょ?」
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