39 同種殺しのほうがいいか

 捜査本部になっている所轄署しょかつしょでミシェルとシヴァも一番後ろの席で会議を聞いていた。特に発言することはなく、自分達が見て回った場所の情報は蜂須賀はちすかに伝え彼から報告させた。一時間程で会議は終わり、蜂須賀が二人の側に近寄った。


「はぁい、蜂須賀はちすかさん。何の実りもない会議に参加しに来たよ」


「悪かったな、進展がなくて!」


 早速嫌みを言うミシェルに蜂須賀は目くじらを立てる。シヴァも呆れた顔で見ていた。


「なかなか人間じゃないものを捜すとなると、勝手がわからないもんでな」


「まぁ、こっちも見つけられてないからお互い様ね」


 ミシェルは立ち上がり話ながら会議室を出ていく。


「しかし、お前さんらも探してくれてるお陰でだいぶ範囲は狭まった。感謝してるよ」


「そーお?ならお礼をしてほしーな」


「なんだ?金か?」


「全員から100mlずつ血を提供してもらおうかな。それか生気でもいいよ!一晩どう?」


「警官を誘惑すんな!この淫魔め!」


 怒る蜂須賀をミシェルは笑い飛ばす。すると蜂須賀はこちらの様子を見ているシヴァに目が向く。


「そういや、そっちの男前も同種なのか?」


「あれ?シヴァのこと紹介してなかったっけ?うちで4番目に長く生きてる同種だよ」


 軽い紹介をされてシヴァは蜂須賀に近寄り会釈する。


「はじめまして、シヴァと言います。戸籍上の名前は磯村亮太いそむらりょうたです。今回は我々の種族が迷惑をしてしまって大変申し訳ありません。亡くなった方々についてもお悔やみ申し上げます」


 あまりにもきっちりとした挨拶に蜂須賀は開いた口が塞がらなかった。


「あの、何か?」


「いや、まともな同種もいるんだな。俺、同種はこいつぐらいしかよく知らないから、みんなこんなんかと思ってた」


「それはひどい偏見ですね。こいつは同種の中でも異常な奴です」


「ああ、やっぱりそーなのか」


「ちょっとひどくない?その言い方!」


 ミシェルの悪口で盛り上がる二人を睨んでいると、スマホが連続でバイブする。ポケットから携帯を取り出すと、亘からの電話だった。亘からかけてきたのは初めてですぐに電話にでる。


「はぁーい!亘。どうしたの?」


 陽気な口調で応えるミシェル。だが、電話の向こうの相手は黙ったまま無音が流れる。不思議に感じもう一度呼び掛けようとしたところ、聞いたこともない悪声あくせいが耳に飛び込んでくる。


『よぉ…』


「誰だ!?」


『犯人って言えばわかるか?それか同種殺しのほうがいいか』


 ミシェルの表情は青ざめる。

 まさか、殺人犯からコンタクトをかけてくるとは思わなかったからだ。だが、そんなことよりも気がかりなことがある。


「そう、ご丁寧に名乗ってくれてありがとう。それより、一つ聞きたいんだけどさ、そのスマホはどこで手に入れたの」


 相手はしばらく沈黙する。

 すると、トークに通知が届き通話にしたまま中身を開く。それには写真が添付されており、車の後部座席に横たわる亘の姿がとらえられていた。


「亘に何をしたぁぁ!」


 怒声を張り上げるミシェルにシヴァと蜂須賀もようやく事態に気づく。


『少し血を吸っただけだ。死んじゃいない。だが、こいつがどうなるかはお前次第だ』


「何が望み!」


『同種共がつるんで俺を捜すのを止めさせろ。お前らに彷徨うろつかれると迷惑だ』


 鼻息を荒げてしばらく考えるが、ミシェルは即断する。


「わかった。けど、それを約束したところで亘を返してもらえるの?」


『それは出来ないな。このガキは人質として利用させてもらう 。ついでに"えさ"になるしな』


 奥歯が割れるほど噛みめ、こぶしを握りしめる。血管などないが怒りの感情がこめかみに集中する。


「おまえ、名前は?」


『名なんか聞いてどうする』


「知りたいんだ。教えてよ」


波夷羅はいらだ』


 少し間を空けて、名を告げる波夷羅はいら。ミシェルは怒りを込めてその名を呼ぶ。


「そう、波夷羅はいらね。

はじめてだよ、私をここまで怒らせたのは。いい、亘を殺してみろ!警察があきらめても、永遠に追い立てて、必ずってやるからな」


 相手は何も言い返さず電話を切る。人質が捕られている状況で犯人を追い込むような発言はしてはならないのだが、ミシェルも冷静ではいられなかった。

 静かに通話を切るミシェルをシヴァと蜂須賀は見つめていた。


「何があった?」


「亘が犯人にさらわれた」


「わたるって?」


 蜂須賀の疑問にシヴァが答えた。


「ミシェルの子供です」


「お前ら、子供が作れたのか?」


 同種は性器があっても生殖能力せいしょくのうりょくはない。精子も卵子も生成することが出来ないので、子孫をつることは出来ないのであった。


「彼女が養子として引き取った人間の子供です。どうやら奴は亘に目をつけてたらしい」


 犯人が籠城ろうじょうしていたのは、警察やミシェル達から隠れるためじゃない。次の標的を決めていたから動き回らなかったのだ。ミシェルは怒りを抑え、亘のスマホの番号を表示する。


「蜂須賀さん。この番号の場所を突き止められる?今、電話を掛けてきたんなら、奴は亘のスマホを持っている。それと捜査員を何人か家に寄越よこして!今日、あの子は家にいた。亘をさらったんなら店の防犯カメラに犯人が映ってるはずだよ」


「わかった!すぐに人を回す!」


 ミシェルは蜂須賀に指示を出すと、すぐに駐車場に向かって走り出した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る