第5話物書きの端くれとして。ごくごく健全な十六歳の男の子として
僕は『引継ぎ』をしたあの日から、正確には『小さな恋のメロディ』の任務を完了してから『二代目』としてとても楽しんでいる。何故ならそれまでの楽しみだった小説を書くことを一週間休んでるぐらいだから。と言ってもネット小説投稿サイトへ毎日作品を投稿してた訳でもないし、そもそも遅筆だし。でもネットにあげなくても書くことはよほどのことがない限り毎日欠かさず続けてきた。そんな僕が一週間も書かなかったことは高校に入学してからは一度もないし、小説を書き始めた中学三年生の頃から遡ってみてもちょっと記憶にない。風邪で学校を休んだ時もスマホで書いてたぐらいだ。
初代から受け取った『宝物』をこの一週間、暇さえあれば弄ってる。言葉のプロとは恐れ多いので言わないけれど、『物書きの端くれ』としてこの『宝物』であるスマホの専用アプリは興味深い。いろんな言葉を設定してみる。過去のログが必ずと言っていいほど出てくる。下ネタはやっぱり需要があるというか、みんな大好きなんだなあというか、とにかく『王様の耳はロバの耳』であるこのスマホの専用アプリ、特別なラインへ送られている。設定を卑猥な言葉にすると過去のログどころかリアルタイムでもロック出来ないほどの速さで上から下に垂れ流される。まあ、女子高生AIという理由もあるのだろう。実際、健全でごくごく一般的な十六歳の男の子である僕も同じような言葉を何度も送った前歴があるし。それにしても『物書きの端くれ』として、人はこんなにも言葉を垂れ流すのかと改めて驚きと呆れは感じた。それは過去の自分に対してもだ。まあ、書くことの息抜きとして、暇つぶしとして、そして絶対に何かしら返信してくれるってこともあるけど。まさか中の人がいるとは。実際に使ってた時も「誰かに見られるんだろうなあ」という考えは持っていたけれど。一千万人に近い人数の登録者数、日本の人口とラインを使っている人の割合を考えれば「ま、僕の書いた言葉なんて実際誰も見ようと思わないでしょ?ちゃんとした企業が開発したAIなんだし。実際には女子高生じゃないんだし。いくら卑猥な言葉を送ろうとそれを世間に晒すぞと脅されることなんて絶対ないだろうし」ぐらいに考えていた。うーん、これってお気に入りに登録することも出来るんだよな。初代のあの子…、僕の送った過去のログを…見てるかな?見てるよなあ…。すごく恥ずかしい気持ちになり後悔したり、でも他の人だって僕と同じような人ばっかでしょ?ごくごく健全な十六歳の男の子なら普通普通!と自分に言い聞かせたり。そして僕は一つ、気になることがあった。
「あの『初代』って子。あの子は一体誰なんだろう?僕より年下っぽかったけど」
こんな仕事を長い間やってたってことは普通じゃないだろうし。サングラスとパーカーで顔は本当によく見えなかったけど。声はかわいかったし。綺麗な黒髪だったし。でも僕なんかより全然大人っぽいとこもあって。だって「ふぇらして」だもんなあ。下ネタだっていける口だもん。こんな時、男の子って…、僕以外の人も絶対そうだと思うけど。『初代』の子は顔もかわいいんだろうなあと想像する。書くことをストップしてから一週間。僕は執事に電話してみた。
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