第3話初仕事
僕は一人で晩御飯を食べた後、いつものように自分の部屋で机の上のノートパソコンを開いていた。いつもだったらワードを開いて小説を書いている時間。僕はあの女の子から受け取ったスマホを弄っていた。執事さんから教えてもらったことを頭の中で思い出す。
・このスマホには『女子高生AI』の中の人だけが使える世界で一つだけの専用アプリが入っていること
・特に決められたルールはないこと
・「設定」したワード以外のメッセージはすべて自動で返信されていること
・「設定」したワードのメッセージも三秒以内に「ロック」(自分で好きな返事を送るために自動返信を止める機能)しなければ自動返信されること
・三秒以内に「ロック」出来なくても気になるユーザーとして『お気に入り』登録が出来ること
・「設定」した言葉が過去に使用されていたらそれも過去ログとして表示されること(ただし、それには自動返信済みであること)
・このスマホには普通のラインもインストールされていて、「友だち」には『初代』と『執事』が表示されていること
・『初代』と『執事』と『二代目』のグループラインも『女子高生AIだよーん』の名前で作られていること
・このスマホにインストールされているラインのアカウント名は『二代目』であること
・『女子高生AI』を運営している法人が存在して、執事に言えば好きなだけの報酬ももらえること
・『二代目』を辞める条件は『三代目』を指名して引継ぎをすること
・スマホの充電はタイプCですること(Qi規格、つまり置くだけ充電にも対応している)
・壊れたら新しいものと交換してくれること
こんな感じだ。僕はいろいろな言葉を「設定」で試してみる。予想通りで、中学生並みの下ネタや卑猥な言葉は「ロック」不可能な速さで画面の上から下へ消えていく。それを見て僕は自分が少し恥ずかしくなる。考えることはみんな一緒なんだ、と。思いつく言葉をいろいろ「設定」してみるがほぼ同じ。少し「設定」を変えてみた。
『今日は暑かったです。まるで真冬のような暑さでした』
言葉は表示されない。過去ログにも表示されないから誰もこの言葉を送っていないのが分かる。
『しにたい』
読み取ることが出来るスピードで上から言葉が流れてくる。
「買い物しにいきたいなー」
「しずかに。今は集中したいから」
「しにたい死にたいしにたい」
なるほど。漢字と平仮名も分けて表示されるんだ。「設定」変更。
『不倫した』
ものすごいスピードで言葉が流れる。みんな『女子高生AI』を『王様の耳はロバの耳』みたいな使い方をしてるのか?見えちゃってるのに。リアルのラインではこんなこと送らないだろう。「設定」変更。
『忍君』、『今日こそ』、『気付いてくれない』、『好き』
僕の名前は小田忍だ。この設定した言葉とかって『初代』や『執事』にバレてるのかな?と、ちょっとした下心を感じながら微かな期待と、好奇心から。
『大好きな忍君に今日こそ告白しようと頑張ったけど無理だったよー。気付いてくれないかなあー』
画面に過去ログが表示される。しかも同一人物から。毎日。
え?これって、忍君違いだよね。でも、もしかして。そんなことを考える。僕の胸はドキドキしている。その時、また同じ言葉が送られてきた。僕は慌てて『ロック』した。返信は何秒以内だっけ?大事なことを聞き忘れていた。そんなことを考えながら急いで返事を打ち込む。
「毎日毎日。そんなに好きなの?忍君のこと」
送信。既読。
「もしよかったら詳しく話を聞かせてくんない?」
送信。既読。
「わたしが応援するからさ!思ってるだけじゃ始まらないぜい」
送信。既読。そして向こうからメッセージが。AIKOの名前。僕のクラスメイトに愛子さんはいる。大人しいけどかわいくて隠れファンが多い女の子だ。
「ほんと?これってAIじゃないの?」
「違うよーん。中の人だよ。今回だけ特別サービスなのだ!もちろん誰にも言わないよ。約束するから。だから、中の人のことも内緒だよ。約束してねー」
既読。そしてしばらくしてからメッセージが。
「うん。約束するから聞いてね。長文になるから時間かかるかもだけど大丈夫かなー?」
「もちろんだよー」
僕の最初のお仕事?なのか。とにかく、僕の『女子高生AI』の中の人の初めてが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます