すぐ近くに。


書いても書いても何も浮かばない。

僕はそんな日を過ごしていた。


毎日とりあえず、机に向かう。

そして、一応パソコンは開いて、キーボードを叩いてみる。

だが、出てくるのは編集担当の催促する声と

いい加減ちゃんとしろ!という親の声。


一冊本が出せたからと言って、

作家として認められたわけではない。

まだ書くだけでは暮らしていけない。


でも、飽きっぽい僕が唯一出来たことが

この書くということだけだった。

だから、いつまでも不安定なこの仕事を続けようとする要因だ。


また、携帯が机の上でけたたましく鳴っている。どうせ「締め切りは今日です」とか、「いつできますか?」とか、そんなような電話だろう。


「はい、もしもし」


「あの、高瀬さんのお電話ですか?」


「あ、はい。、、、そうですけど」


「あの、私、、、」


いや、編集部でもなんでもなかった。

久々に聞いた、懐しい声だった。


そうか、

ここから始まる話を書いてもいいじゃないか。

僕は大切なことを見落としていた。

僕の書きたいものはきっとすぐ近くに落ちているのだ。

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