第89話経験者
「それ程難しい事を俺達はここまで続けて来れた勲章が、今の幸せとして帰ってきてるんじゃないかな?」
「それは……そうかも。 私たち二人で今まで築き上げてきた歴史がある分幸せって思えば納得いくかも」
確かに、それは水樹の言う通りなのかもしれない。 言われてみれば納得できる内容である。
「それに、もし何か嫌なことを言われたとしても、俺だけは美奈子が今以上に幸せでも良いんだと隣で言い続けるから」
ぽすっ。
ぽすっ。
私は照れ隠しで水樹を軽く殴る。
水樹の、こういう素なのか女慣れしているのか分からないような発言が多々あるのだが、それに毎回反応してときめいてしまう自分を見られるのが何だか恥ずかしいと思ってしまう。
そう、これはすべて水樹のせいなので私に殴られるのは当然の罰なのである。
「きゃぁっ!?」
そして、なおも数回『ぽすっぽすっ』と殴っていると急に水樹に抱きつかれてしまい、そのまま押し倒されてしまう。
「やられたらやり返す倍返しだ」
そしてその夜は、今まで悩んでいた事などどうでも良い瑣末な問題だと思えるほどに熱い夜を過ごすのであった。
◆
「それ、ちょっとマリッジブルーに入っちゃってんじゃないの?」
「あぁ、言われてみれば確かにそうかも。 なるほどなぁー。 この、情緒が不安定な感じがマリッジブルーなのか。 さすが眞子ね」
昨日のマイナス思考の原因が分かってしまうと、それはそれで今しか体験できなのならばこの情緒の不安定さも結婚式の醍醐味であると、いっそのこと纏めて楽しんでやろうと思えてくる。
「ちなみに眞子の時はどうだった?」
「私? 私もなったよ。 だって今の状態で幸せだったのに、結婚という形でその幸せだった状態が変化するわけじゃない。 そう思うと、今の幸せな状態が崩れてしまうんじゃないかって思ってしまてたわね。 今思えばそんな事ないって分かるんだけど、当時はとにかく環境の変化を怖がっていた感じだったわね」
「あぁー、なるほど。 分かるかも。 多分私もそんな感じだと思う。 今までが上手く行きすぎていたからこそ、その上手くいっていた環境が変化することに怖がっているんだと、何となく自分の感情が分かったわ。 ありがとう」
そして、やはり経験者は違うなぁーと感心してしまう。
眞子は私のように、この不安がどこから来るものなのか相談できる相手もいないまま乗り越えたのだと思うと、ほんの少しばかり尊敬してしまう。
「なるほど、だから眞子の結婚式が近づくにつれてカラオケに行く頻度が増えていったのね。 納得だわ」
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