第42話甘い事いってんじゃねぇーっ!

そしてお互いの唇が離れ、高城が真剣な眼差しで私を見つめて来ると意を決したように口を開く。


「ミナ、俺はずっと前から、それこそミナがミナと分かる前からミナの事を異性として好きになっていたんだと思う。好きだ。俺の彼女になってくれないか?」


その言葉は私が聞きたかった言葉で、そして聞きたくなかった言葉であった。


「………………ご、ごめんっ」


私はその一言を何とか絞り出すと逃げる様に帰路に就く。


何処まで走ったのであろうか。


途中から何も考えず走っていた為いつの間にか見知らぬ街へと来てしまったみたいである。


電柱の上に備え付けられたミラーを見ると涙で化粧うが落ちた私の顔が写っていた。


いい気味である。


勘違いしてもしかしたらと思わなかった訳ではない。


けれども私なんかが高城に告白などされる訳がない事ぐらい理解できるし、理解できるだけの思考は持っている。


海でのデートの時は恋人として振る舞う為の行為の一つという事ならば理解できる。


しかし、先ほどのキス、そして告白に関しては何も理由がないのだ。


それがどういう事なのか分からない程夢見がちな少女ではないのだ。


もしかしたら、そうと分かっていつつも高城の言葉を受け入れた方が楽だったかもしれない。


そういう後悔が無いと言えば嘘になる。


しかし、それよりも私如きに対して好きと言える高城も、私如きに好きと言える位誰でも良いというその考えも心がネジ切れそうな程に耐えれる物ではなかったのだ。



「お姉ちゃんの大馬鹿野郎っ!!いや、女だから大馬鹿野娘っ!!って何て読むのよこれっ!?」

「うっさいわね、知らないわよ」

「黙りなさいっ!この馬鹿娘っ!!酷い顔して帰って来たから何があったのか聞いてみればっ!バカとしか言いようが無いわこの大馬鹿者めっ!!」

「そうだそうだっ!!もっと言っておやりなさい妹ちゃんっ!!眞子姐さんもお冠ですからねっ!!この意気地なしっ!!」


そして今私は何故か妹に馬鹿と呼ばれ友達の眞子には意気地なしと罵られていた。


地味にむかつくのだが言い返すだけの気力も元気も無いし、罵られれば罵られる程何だか悲劇のヒロインの様な気がして傷ついた心の傷の痛みが和らいでいく様な、そんな錯覚を感じてしまう。


「なんで私の高城王子の告白を無下にしたのよ意味わかんないっ!!」

「だって、私如きを好きになる異性などいるはずないし、それが高城くらいイケメンで異性に対して事欠かない人が相手ならば尚更でしょう………?」

「悲劇のヒロイン振るのは告白してフられてからにしなさいよっ!こーの馬鹿ちんがぁっ!!甘い事いってんじゃねぇーっ!!」



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