第37話それもかなり良い感じでイケメンに写っている奴



気が付けば私はいつの間にか帰宅しており、あの高城とのキ、キキ、キー…………と、兎に角あの事件から帰宅して今に至るまでの記憶がごっそりと抜け落ちてしまっている。


そして今も意識を強く保たないとあの事件の事を思い出すと意識が飛びそうになる。


た、確かにあの時は私たちは恋人?同士という設定だからはたから見ればあんな事の一つや二つしたところで何もおかしくは無いだろうし、何ならその恋人という設定に真実味を出す為にもあんな事をするというその行為もうなずける。


そうでもなければ私ごときにヒエラルキーの底辺にあんな事を出来る筈が無いのだから。


自分で言ってて悲しくなってしまうのだがこれが現実であろう。


しかしながらき、ききき、き…………す、をするという行為は少なからず私の事を異性と思っていなければ出来ない行為なのではなかろうか?


であるのならば、私にもワンチャンあるのでは?


手の届かない存在、池に映る月の様な存在だと思っていた為今までそんな事を思いすらしなかったし、同じ世界線に住む人間だとも思わなかったが、高城も私と同じ人間であると、手を伸ばせば触れる存在であると知ってしまった。


そして私はここまで考えた所ではたと気付く。


あの高城の事である。


どうせキスの一つや二つなど最早経験あり過ぎて挨拶程度にしか思っていないかもしれないという事に。


そして、高城の周りにいる女性陣達が皆可愛いく綺麗であるという事を。


なんだ。私には初めからワンチャンなど無かったのだ。


ぬか喜びさせやがって。


何がキスだ馬鹿野郎。


私の純情を返せってんだ。


こちとら初体験だったんだぞっ!!


「何が初体験だったの?お姉」

「何ってそりゃぁお前さん、キスに決まって………」


そして私は感情のまま何も考えず答えてしまう。


目の前には言質という人質を取ったと言わんばかりの、悪代官がする様な表情でニタリとにやける妹の姿があった。


「帰って来た時から様子が可笑しかったからこっそり後をつけてみれば顔を赤くしたり青くしたりと忙しそうだったけど、ふーん。なるほどなるほど。あの万年干物女のお姉ちゃんがねぇ………」

「い、いいじゃない別に。わ、私だって女なんだからキスの一つや二つ位するわよ」

「ふむふむ、ではこの事は父親に報告させて頂きますっ!!」


そして妹はそのままとんでもない事を言ってシュビシと敬礼をして消え去ろうとしたので慌てて手首をつかむ。


「ま、待ちなさいよ」

「高城様の自撮り」

「………は?」

「それもかなり良い感じでイケメンに写っている奴」

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