第36話今この時ばかりは
「しかし、みんな元気だな。むしろ海に来てテンションがまた一段と上がっている気がする」
「そういう高城君はみんなの輪の中に入らないの?」
「んん?何言ってんだよ。俺はミナの夫だろ?夫は妻の隣にいるもんだろ」
「………………………………なにそれ」
悔しい。
そうやって非モテの女性をからかって何が面白いのか。
妻だ夫だ何だというのも所詮はネットゲーム内の話でしかないのに。
そうだと知っていながら、からかわれているだけだと分かっていながら高城のその言葉に少なからず嬉しく感じてしまう自分がいる訳で、今この時ばかりは騙されても良いかなと思ってしまう。
そうなったが最後、抜け出せない沼であり、高城と両想いになるという未来は無いと知っているというのに。
「………………っ!?」
「夫婦だから手ぐらい繋ぐだろ?」
「そ、そうだけどっ!?そうだけどっ!!」
そんな私の心の葛藤など関係ないとばかりに高城は、私の身体を支えていた右手の上に左手を添え、そして握ってくる。
今私たちはカップルという体でいる訳で、二人一緒に並んで座り手も握らないというのは違和感があるという考えからの行動であろうが、それはそれで言いたい事は分かるのだがそれはそれ、これはこれであろう。
高城に握られた手から私の体温がぐんぐん上がって行くのに比例して、私の心臓の鼓動も激しくなっていく。
「嫌だったか?」
「………………別に、嫌じゃないけど」
その聞き方は卑怯ではないか?
そう思うものの、この手を放したくないという欲求の方が圧倒的に強いわけで。
あぁ、もうどうにかなってしまいそうである。
「そっか……」
「何ちょっと嬉しそうなのよ………」
「いや、実際嬉しいしな」
「………………バカ」
なんだか、世界は私達二人だけの様な、そんな錯覚すら感じてしまう。
「なぁミナ?」
「何むぐっ!?」
「じゃ、俺もそろそろあいつらに交じって来るわっ」
そんな時、不意に高城に名前を呼ばれて振り向けば目の前いっぱいに高城の顔があり、私の唇に柔らかな触感を感じると共に口を塞がれ言葉に詰まる。
そして高城は顔を真っ赤にしながら逃げる様にリア充達の元へと走り去って行くではないか。
それから五分程、ショートした脳が冷やされた私は先ほどの行為を思い出し、それが世間一般から言うところのキス、接吻、口づけ、ベーゼなる行為であると結びついては思考停止に陥るといのを帰り際まで繰り返すのであった。
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