ハナガサク
洞貝 渉
第1話
幼いころ、よく、頭の上に花の種を隠していた。
向日葵や朝顔、蒲公英なんかは手に入りやすかったので常連で、他はだいたい親にねだって手に入れたものだった。
コスモス、スイートアリッサム、センニチコウ、ナデシコ、ニチニチソウ……。
両親は子どもが女の子らしく花好きになったと最初こそ喜んでいた。
でも、小汚く髪に異物をくっつける奇行を繰り返す我が子の様子に気が付くと、なんとか私をまともな子どもに治そうと奮闘した。
こんなことしても、お花は咲かないんだよ。
みんなはこんなことしてないよ。
先生に怒られちゃうよ。
そんなことするような子はうちの子じゃありません。
いい加減にしなさい汚いでしょう。
先に音を上げた、というか興味をなくしたのは父親。次いで母親は、愛情が嫌悪に反転したようで、私への当たりが強くなった。
それでも私は、しばらくの間は種を頭に隠すことを止めなかった。
みんなと同じようになりたかったから。
親も必死だったのだろうけど、私も必死だった。
物心つく頃から、私には人の頭の上で咲き誇る花が見えていた。
母の頭には黄色いヒラヒラとした花。父の頭には紫色のシュッとした花。植物図鑑で調べたら、それぞれカーネーションとサフランという名前の花だった。
仲良しの陽葵ちゃんの頭には緑の四つ葉と白いクローバーの花がこんもりしているし、人気者の碧君の頭には白色と黄色の綺麗なスイセンの花がのっかっている。
クラスのみんなも、先生も、道ですれ違う人たちも、SNSで自撮りした写真の人にも、例外なく頭の上に花が咲いていた。
なのに、私の頭には花が無い。
「なんで私の頭の上には花が咲いていないの?」
まだ、花の種をねだる我が子に大喜びしていた頃の母に尋ねてみたことがある。
「人の頭には花は咲かないの。花を咲かせたいなら、お庭に花の種をまきましょうね」
「でも、みんなの頭には花があるよ。なんで私だけ無いの?」
「あなただけじゃなくて、みんなの頭にも花なんて無いの」
「お母さんの頭にも花が咲いてるよ。私に無いのはなんで? 大人になったら、咲く?」
あの時、母はなんて言っていただろうか。
かなり強く叱りつけられ、その日の夕食と翌日の朝食が抜きになったことだけは覚えているが、母の返答は覚えていない。
ただ、私はこのときに学んだのだった。
困ったからといって必ずしも親が頼りになるわけじゃない、と。
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